オフサイトPPAとは? 自己託送との違いやメリット・デメリットを解説

「オフサイトPPAと自己託送は何が違うの?」
「そのなかでもオフサイトPPAが注目されている理由とは?」
電力の供給に関わるオフサイトPPAと自己託送について、2つの違いがよくわからない人も多いのではないでしょうか?また、オフサイトPPAが注目されている理由について知りたい人もいるはずです。
この記事では、以下についてわかりやすく解説します。
オフサイトPPAとは

オフサイトPPAとは、FIT制度を適用しない太陽光発電の事業者が、需要家である法人に電力を売る仕組みです。
再生可能エネルギーを利用した電力の売電について、政府が決めた価格での買取を電力会社に義務付けた制度のこと
関連記事 固定価格買取(FIT)制度とは
発電事業者から再生可能エネルギーの電力を購入して、自社の設備で利用する法人のこと
なおオフサイトPPAは「PPAスキーム」を利用し、発電事業者が需要家に売電する太陽光発電の運用方法である「コーポレートPPA」のひとつで、フィジカルPPAとバーチャルPPAの2種類に分かれます。
フィジカルPPA | バーチャルPPA | |
---|---|---|
仕組み | 太陽光発電の発電事業者と需要家が、電力の売買契約を締結して電気の売買をする | 電力の供給はせずに「環境価値」のみを対象として、太陽光発電の発電事業者と需要家で売買をする |
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オンサイトPPAとの違い
オフサイトPPAとは別に、オンサイトPPAという売電の運用方法もあります。
オンサイトPPAとは、需要家が所有する建物の屋上や敷地内に発電事業者が太陽光発電を設置し、電力と環境価値を直接供給する仕組みです。以下にオフサイトPPAとオンサイトPPAの違いを整理しました。
比較項目 | オフサイトPPA (フィジカルPPA) | オフサイトPPA (バーチャルPPA) | オンサイトPPA |
---|---|---|---|
太陽光発電の設置場所 | 発電事業者の所有地 | 発電事業者の所有地 | 需要家の敷地内 |
電力供給方法 | 電力会社を経由 | 供給なし | 直接供給 |
環境価値の提供 | 電力会社を経由 | 発電事業者が直接提供 | 発電事業者が直接提供 |
設備の増設可否 | 土地があれば可 | 土地があれば可 | 敷地に限りがあるため難しい |
なお、オンサイトPPAは、オフサイトPPAと同じくPPAスキームを使って太陽光発電を運用する方法のひとつです。
「太陽光発電導入の初期費用を発電事業者が負担する」「設備のメンテナンスや修繕などを発電事業者が管理する」という点に変わりはありません。
ただし、電力会社を経由せず、発電事業者から需要家に電力を供給するのがオフサイトPPAとの主な違いです。
自己託送とは
自己託送とは、オフサイトPPAといったPPAスキームとは異なる仕組みで需要家に電力を供給する方法です。
まず自己託送では、需要家自身が遠隔地に太陽光発電等の発電施設を設置して、自社の施設で電気を利用します。発電所と電気を利用する建物は、物理的な距離が離れているため、電力会社の送電網を利用して電気を供給しなければなりません。
よって、自己託送では電力会社への託送料金の支払いが必要です。また発電事業者と電力の供給を受ける需要家が同一の法人になり、電気料金が実質かかりません。
自営線との違い
自己託送と類似の電力供給の仕組みとして、自営線があります。
自営線は、事業者が自ら敷設する送電線を利用して電力を供給するため、自己託送のように既存の送配電ネットワークを利用しません。
ただし、送電線を設置していない場合には整備費用・維持管理費用がかかるのがデメリットです。ただし近年では自治体などが主体となって、地産地消の電力をつくるために自営線をつくる動きがあります。
自営線を活用した電力の地産地消は、すでに次のような自治体が施策に取り組んでいます。
- 北海道河東郡⿅追町|太陽光発電を利用して電気と熱を地域に供給
- ⾼知県梼原町|バイオマスより電力や熱を供給して脱炭素を推進
オフサイトPPAと自己託送の違い
オフサイトPPAと自己託送の違いを下表にまとめました。
項目 | オフサイトPPA (フィジカルの場合) | 自己託送 | |
---|---|---|---|
電力利用の仕組み | 発電事業者を経由して利用ユーザーに提供 | 自社の施設に直接供給 | |
契約申し込み | ・自社 ・発電事業者 ・利用ユーザー の3社間 | ・自社 ・送配電事業者 の2社間 | |
発電設備の管理 | 所有者 | 発電事業者 | 自社 |
メンテナンス | 〃 | 〃 | |
発電設備の種類 | 太陽光発電や風力発電など | 主に太陽光発電 | |
設置場所 | 発電事業者の敷地 | 自社の敷地(使用場所から物理的な距離あり) | |
再エネ賦課金 | あり | なし | |
託送料金 | あり | あり | |
燃料調整費 | なし | なし | |
出力制御対象 | あり | 10kW未満は対象外 | |
部分供給 | あり | あり | |
補助金 | あり | なし | |
FIP制度 | あり | なし |
以下より、各違いを項目ごとに詳しく解説します。
電力利用の仕組み

オフサイトPPAと自己託送は、それぞれ電力利用の仕組みが違います。
まずオフサイトPPAは「提供事業者(自社)」「発電事業者」「利用ユーザー」でPPA契約を締結し、電力の取引をする代わりに料金の支払いをすることにより、利用ユーザーに電力を届けられる仕組みです。
対して自己託送は、送電サービスを利用しながら、自社で太陽光発電等の発電施設を運用し、別のエリアにある自社工場などの施設のために電力を送電します。
申込方法
オフサイトPPAは、以下に示す3社間での契約を締結し、それぞれに利益のある電力供給・資金提供の動きがあります。
- 提供事業者(自社)
- 発電事業者
- 利用ユーザー(企業や工場など)
一方で自己託送は、以下に示す2社間の契約だけで対応が可能です。
- 提供事業者(自社)
- 送配電サービスを提供する送配電事業者
電力供給の仕組みが違うことから、契約すべき相手先も変化します。
管理方法
まずオフサイトPPAは、太陽光発電といった発電設備の所有者およびメンテナンスを、発電事業者が対応します。発電事業者の敷地に設置された設備を利用するため、自社で管理する手間がかかりません。
一方で自己託送は、自社で太陽光発電を所有するのはもちろん、運用とメンテナンスにも対応する必要があります。社内に太陽光発電の管理ノウハウがない場合には、代行サービスに管理を委託するケースも少なくありません。
再エネ賦課金のかかり方
再エネ賦課金は、発電事業者から電力供給を受けて、支払う費用に対してかかる税金です。
よって、発電事業者と契約を締結するオフサイトPPAでは、再エネ賦課金が発生します。対して自己託送は、自社内で電力を供給することから再エネ賦課金がかかりません。
関連記事 再エネ賦課金とは?
託送料金のかかり方
託送料金とは、送配電網を利用する際に支払う費用です。なお託送料金のなかには、次の費用が含まれます。
- 人件費
- 修繕費
- 減価償却費
- 固定資産税
- 電源開発促進税
- 賠償負担金
- 廃炉円滑化負担金
出典:資源エネルギー庁「料金設定の仕組みとは?」
オフサイトPPAはもちろん、自己託送についても送配電業者の送配電網を利用して電力を託送する仕組みです。つまり、どちらも送電する電力量に応じた費用の支払いが発生します。
燃料調整費のかかり方
燃料調整費は、平均燃料価格により毎月変動する調整額のことであり、原油価格や液化天然ガス価格などから算出されます。
なお再生可能エネルギーを利用して発電するオフサイトPPA・自己託送では、原油・液化天然ガスといった燃料を利用しないことから、燃料調整費が発生しません。
出力制御対象の可否
出力制御とは、電力の供給や出力を一時的に制御し、需要と供給を一致させるために、電力会社が発電事業者に対して実施する要請のことです。
よって、利用ユーザーに電力を提供し料金を受け取るオフサイトPPAは、需要・供給のバランスを崩す恐れがあるため、場合によっては出力制御を受けることとなります。
一方で、自己託送は自社内で電力供給をする目的であることから、基本的には出力制御の対象にあてはまりません。
ただし、資源エネルギー庁が公開している「再生可能エネルギーの出力制御の抑制に向けた取組等について」によると、10kW以上の供給においては出力制御の対象になると言われています。
関連記事 出力制御(出力抑制)とは
部分供給への対応
部分供給とは、電力会社と新電力(特定規模電気事業者)の両方から需要者(利用ユーザー)に向けて電力を供給する仕組みです。
まずオフサイトPPAについて、資源エネルギー庁が公開している「部分供給の見直しについて」より、部分供給がありとなっています。
同じく自己託送についても、東京電力パワーグリッド株式会社の「自己託送に係るお手続きについて」などの資料より、自己託送による電力供給でまかなえない場合は、部分供給が可能です。
補助金の適用
オフサイトPPAでは、次の補助金制度を利用できます。
一方で、自己託送の場合には適用できる補助金がありません。
FIP制度の活用
オフサイトPPAは、環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズが公開している「オフサイトコーポレートPPAについて」の資料より、FIP制度の支援を受けつつ運用できると明記されています。

一方で、自己託送は、あくまで自社内の施設に電力を供給する仕組みです。発電した電気を売電することはできないことから、 余った電力を一定の金額で買取してもらえるFIP制度と併用できません。
関連記事 FIP制度とは?
オフサイトPPAと組合型自己託送との混同に注意

オフサイトPPAと自己託送は、異なる目的で運用される電力供給の方法ですが、似た仕組みだと間違って認識する人がいます。理由としては、2021年11月に施行した「組合型自己託送」の仕組みの一部が、オフサイトPPAと似ているためです。
まず従来の自己託送は、自社内の離れた場所にある工場といった施設に対して電力を供給できます。対して、組合型自己託送は、自社だけではなく組合をつくることにより、他社にも電力を供給できるようになる仕組みです。
「自社」「送配電事業者」「組合先の企業」との3社間での契約を締結することから、同じく3社間で契約をするオフサイトPPAと似ていると言われています。実際には異なる仕組みですので、内容の混同に注意してください。
オフサイトPPAの発電事業者のメリット
太陽光発電の発電事業者がオフサイトPPAを利用するメリットは、以下の2つです。
それぞれがなぜメリットになるのか、詳しく解説します。
金融機関から融資を受けやすい
太陽光発電をオフサイトPPAで運営する場合、以下2つの理由から金融機関の融資を受けやすくなっています。
- 需要家との売買契約で取り決めた価格が長期間固定されるため
- 太陽光発電設備自体が担保になるため
オフサイトPPAでは、契約期間が5~20年間で設定されるケースが多く、中長期で電気の売電価格が固定されます。
安定した売電収入が見込めるため、金融機関に返済が滞る可能性は低いと判断されて、融資がおりる可能性が高い点がオフサイトPPAのメリットです。
契約期間中は安定した売電収入が得られる
FITを適用しなくても、契約期間中は売電収入が安定する点が、オフサイトPPAで太陽光発電を運営するメリットのひとつです。
卒FIT後の売電先が電力会社の場合は、半年か1年ごとに買取価格が見直しされます。
電力の市場価値が上がれば買取価格も値上がりしますが、市場価値が下がった場合は電気の買取価格が下がる点が電力会社に売電する場合のリスクです。
オフサイトPPAは売買契約で取り決めた価格で長期間売電でき、市場の動向に左右されずに安定した売電収入が得られるメリットがあります。
オフサイトPPAの発電事業者のデメリット
オフサイトPPAで考えられるデメリットは、以下の3つです。
電力の市場価値が上がっても売電価格を変えられない
契約期間の途中で売電価格を変えられない点が、オフサイトPPAで売電するデメリットです。
オフサイトPPAでは発電事業者と需要家が、電力の売買契約を締結します。
契約期間が満了するまでは、オフサイトPPAの契約書に従って電気を売り買いするため、売電価格が変更できません。
このため電力の市場価値が上がっても売電価格を値上げできず、機会損失の可能性があります。
市場の動向によって、発電事業者と需要家のどちらかが大きな損失を被ることがない取り決めで、契約を締結することが重要です。
発電量が少ないと契約供給量の不履行となる可能性がある
天候の影響や設備の故障などで発電量が低下して需要家に損失が発生した場合に、電力供給量の不履行で補填が必要になる可能性があります。
オフサイトPPAで供給される電力が少ないと、需要家は高い単価の電力を購入しなくてはなりません。
安定した発電量で電力を供給できていれば発生しない支出のため、需要家にとっては保証されるべき損失になります。
発電事業者は売電収入が減るだけでなく、需要家の損失を補填するため、さらに大きな損失となる点がオフサイトPPAのデメリットです。
定期的にメンテナンスして設備の不具合をなくし、一定の発電効率を維持できるようにしましょう。
関連記事 太陽光発電のメンテナンス費用(維持費)
電力購入者の法人に倒産の可能性がある
需要家である企業に倒産の可能性がある点も、オフサイトPPAのデメリットと言えます。
規模の大小にかかわらず、倒産のリスクがない企業はありません。不測の事態が起きて需要家が倒産してしまうと、売電収入が得られなくなります。
事業の将来性を見極めるのは難しいですが、オフサイトPPAの売電先を決める際は、「需要家である企業が資金繰りに困っていないか」などを細かく確認することが重要です。
オフサイトPPAが注目されている2つの理由
太陽光発電でオフサイトPPAが注目され始めている理由は、2つあります。
それぞれがなぜ、需要家がオフサイトPPAに注目する理由になるのか、詳しく解説します。
追加性のある電力を調達できるため
PPAスキームを需要家が導入すれば、追加性がある電力を調達できる点が、オフサイトPPAが注目される理由です。
新たに設置した再生可能エネルギーの発電施設から、環境への負担が少ない電気を持続的に調達すること
事業に利用する電気を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる「RE100」では、追加性がある電力が重視されています。
このため、RE100に参加している企業が、オフサイトPPAによる電力調達に注目しています。
関連記事 RE100とは
コストをかけずに太陽光発電を導入して社会貢献できるため

オフサイトPPAは、初期費用をかけずに、自社に太陽光発電を導入できて社会貢献にもなる点が法人に注目される理由です。
企業には主軸の事業活動のほかに、環境保護活動などで地域に貢献する義務があります。
自己託送の選択肢もありますが、土地探しや初期費用の負担が必要なことから導入のハードルが高いと考える法人が、オフサイトPPAに注目しています。
関連記事 太陽光発電のメリット・デメリット
オフサイトPPAにおすすめの太陽光発電
オフサイトPPAに向いている太陽光発電の事例を2つ、紹介します。
以下では、なぜオフサイトPPAにおすすめなのか、詳細を説明します。
耕作放棄地

耕作放棄地は作物を育成していた土地のため、日当たりが良くて発電量を確保できる可能性が高く、オフサイトPPAに向いています。
耕作放棄地の問題や対策については以下の記事で解説しています。
関連記事 耕作放棄地とは? 問題と解決策
農業をせずオフサイトPPAに利用する場合、土地の地目が農地のままでは太陽光発電を設置できないため、農地転用の手続きが必要です。
ただし農地には、農地転用できる白地とできない青地の2種類があります。
最初に農地転用できる土地かどうかを確認した上で、オフサイトPPAの計画を立てましょう。
関連記事 農地転用とは
関連記事 農地で太陽光発電をするには?
ソーラーシェアリング
農業をしながら農地に太陽光発電を設置するソーラーシェアリングも、オフサイトPPAに適しています。
農地には広い土地が多く、日を遮るものがないため、安定した発電量で一定の売電収入が見込める可能性が高いです。
栽培の過程で日陰が必要な作物を植えている農地をソーラーシェアリングに利用すれば、オフサイトPPAと農業のどちらにもメリットがあります。
ソーラーシェアリングについて詳しくは、以下の記事をご覧ください。設置条件やメリット・デメリットについて解説しています。
関連記事 ソーラーシェアリングとは?
オフサイトPPA・自己託送についてよくある質問
- オフサイトPPAは停電しても使えるの?
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オフサイトPPAは、一般送電網を利用して電力を供給することから、停電が起きた際には電気を供給できません。非常用電源として活用できない点に注意してください。
- オフサイトPPA事業者になるためには資格が必要?
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オフサイトPPAの事業者となるためには、電気小売の資格が必要です。
環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズが公開している「オフサイトコーポレートPPAについて」の資料でも、電気小売の事業者が取引の対象となっている点に注意してください。
オフサイトPPAまとめ
オフサイトPPAと自己託送は、それぞれ発電や電力供給に関する仕組みや対応範囲が異なります。また、管理が自社なのか、第三者である電力事業者と契約すべきなのか、といった条件が変わる点にも注意してください。