農地活用・売却

ソーラーシェアリングとは? 設置条件・デメリット・失敗事例・補助金などを解説

ソーラーシェアリング
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農業をしながら太陽光発電もする「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」が注目されるようになってきました。

ただし、「ソーラーシェアリングにはどういう作物が適しているのか?」「ソーラーシェアリングの失敗事例は?」などの疑問をお持ちの方がいるのではないでしょうか。

この記事では、以下について解説します。

ソーラーシェアリングについての基礎知識が身に付けられますので、ぜひ最後までお読みください。

使わなくなった農地を再生・活用するには、太陽光発電が適しています。当サイトでは、「農地で太陽光発電する方法」を解説しているので、詳しく知りたい方は参考にしてください。

ソーラーシェアリングとは

ソーラーシェアリングについての基礎知識として、次の4点について解説します。

  • ソーラーシェアリングとは何か
  • ソーラーシェアリングの設置条件
  • ソーラーシェアリングの遮光率と適した作物
  • ソーラーシェアリングの費用

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは何か

ソーラーシェアリング

ソーラーシェアリングとは、農地において農業をしながら太陽光発電もするシステムのことです。農業を営み(営農)ながら太陽光発電するということで、「営農型太陽光発電」ともいわれます。

具体的には、農地に支柱を立て、上部の空間に太陽光パネルを設置し、農作物を栽培しながら発電します。

農業収入を得ながら、太陽光発電による売電収入も得るため、安定的な農業経営ができるのが特徴です。

ソーラーシェアリングの設置条件

ソーラーシェアリングをするためには、農地の一時転用手続きをしなければなりません。

一時転用の許可を受けるためには、主に以下の条件をクリアする必要があります。

ソーラーシェアリングの設置条件
  • 営農が行われていること
  • ⽣産された農作物の品質に著しい劣化が⽣じていないこと
  • 同年の地域の平均的な単収と比較し ておおむね2割以上減収しないこと。ただし、荒廃農地を再生利用した場合には、適正かつ効率的に利用されていれば、減収に関する要件は適用されません。
  • 農作物の⽣育に適した⽇照量を保つための設計であること
  • 効率的な農業機械等の利⽤が可能な⾼さ(最低地上⾼2m以上)であること
  • 周辺農地の効率的利⽤等に⽀障がない位置に設置されていること
  • 簡易な構造で容易に撤去できる支柱であること
  • 設備を撤去するのに必要な資金や信用があること

出典:農林水産省「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて

とくに重要なポイントは、営農が適切に継続されているかどうかです。

荒廃農地の場合には、収量の要件は課されないものの、ただ作付けされていればよいというわけではありません。「適正かつ効率的に利用」されている必要があります。

関連記事 農地で太陽光発電を行うには?

ソーラーシェアリングの遮光率と適した作物

ソーラーシェアリングの「遮光率」とは、太陽光パネルが、日光の量をどれほど遮るかを示す指標です。

ソーラーシェアリングにおいては必ず農地に日陰が発生するため、作物を作付けする際に、遮光率を考慮しなければなりません。

遮光率の関係から、ソーラーシェアリングには、「半陰性植物」と「陰性植物」が向いています。逆に、日陰では生育できない「陽性植物」は不向きです。

ソーラーシェアリングに適した作物を以下の表にまとめましたので、参考にしてください。

半陰性植物イチゴ、ホウレンソウ、コマツナ、ネギ、カブ、アスパラガス、ジャガイモ
陰性植物ミツバ、クレソン、ニラ、シソ、フキ、ミョウガ、キノコ類
ソーラーシェアリングに適した植物例

ただし、陽性作物であっても、遮光率や栽培方法によっては栽培が可能なケースもあります。

ソーラーシェアリングの費用

ソーラーシェアリングを導入する際にかかる費用は、農地の面積や状況によって異なりますが、一例を示しますので参考にしてください。

50kWの発電設備を設置する場合、遮光率が35%程度になるようにするならば、農地は1,000㎡程度必要になります。この際の費用は1,200万円前後です。

ソーラーシェアリングの設置費用の内訳は、以下の通りです。

ソーラーシェアリングの設置費用の内訳
  • 太陽光パネル:340万円
  • パワコン:210万円
  • 架台:210万円
  • 工事費用:300万円
  • 申請手続き費用:140万円

ソーラーシェアリングのメリット

ソーラーシェアリングの主なメリットとして、次の4点を紹介します。

ソーラーシェアリングのメリット
  • 耕作放棄地問題の解決
  • 売電による安定収入
  • 後継者問題の解決
  • 適度な遮光

どのようなメリットがあるのかを理解して、ソーラーシェアリングを最大限に活用しましょう。

耕作放棄地問題の解決

ソーラーシェアリングによって、耕作放棄地問題を解決できます。営農により、耕作放棄地を再生利用できるためです。

参考として、5年に1度調査が行われる「農林業センサス」に示された、日本の耕作放棄地の面積の推移が以下のとおりです。

耕作放棄地面積(万ha)
197513.1
198012.3
198513.5
199021.7
199524.4
200034.3
200538.6
201039.6
201542.3
出典:内閣府「農地・耕作放棄地面積の推移

耕作放棄地の面積は、年々増えています。たとえば、農地が耕作放棄地になることで発生する問題は次のようなものです。

農地が耕作放棄地になると発生する問題
  • 近隣農家に迷惑がかかる
  • 食料自給率が低下する
  • ごみの不法投棄が発生する
  • 災害リスクが高まる

ソーラーシェアリングによって営農を続ければ、耕作放棄地問題を解決できる可能性があります。

なお、耕作放棄地問題については以下の記事を参考にしてください。耕作放棄地の現状や、解決策について解説しています。

関連記事 耕作放棄地とは? 問題と解決策

売電による安定収入

ソーラーシェアリングを導入すると、売電による安定収入が得られます。なぜなら、天候や病害虫などに影響を受ける農業収入と比較すると、太陽光発電による売電収入は安定しているためです。

安定的な売電収入があることによって、農業経営も加工に取り組んだり、新規作物に取り組んだりもできるでしょう。

後継者問題の解決

ソーラーシェアリングは、後継者問題の解決につながります。売電収入によって収入を増やし、農業経営を安定させられるためです。

参考として、農林水産省「令和3年度食料・農業・農村白書」に掲載された「基幹的農業従事者数」のグラフを見てみましょう。

後継者が不足し、農家の数が減り続けています。ソーラーシェアリングによって農家の収入を増やし、後継者問題を解決できる可能性があります。

適度な遮光

ソーラーシェアリングを導入すると、適度な遮光が発生します。農地の上部に設置した太陽光パネルが日光を遮り、日陰を作るためです。

農地に日陰ができることによって、直射日光にさらされることなく農作業ができます。

また、作物の葉焼け・高温障害を防ぎ、半陰性植物や陰性植物の生育を促進させます。適度な遮光は、農業にとってメリットです。

ソーラーシェアリングのデメリット

ソーラーシェアリングの主なデメリットとして、次の4点を紹介します。

ソーラーシェアリングのデメリット
  • 20年間継続しなければならない
  • 設備費用が高額である
  • 農作業がしにくくなる
  • 融資されにくい

ソーラーシェアリングを始める前には、メリットだけではなく、デメリットも押さえておきましょう。

20年間継続しなければならない

ソーラーシェアリングは、20年間継続しなければならない点がデメリットです。

固定価格買取(FIT)制度により定められている、太陽光発電した電力の固定買取期間が20年間と定められており、この20年間は、営農を継続する義務が生じるためです。

FIT制度について、仕組みや目的を詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

関連記事 固定価格買取(FIT)制度とは

たとえば、ソーラーシェアリングを導入してから、病気などで農業が続けられなくなってしまった場合、太陽光発電設備の撤去を命じられる可能性があります。

後継者がいれば問題はありませんが、20年間継続しなければならないケースがあることを理解しておきましょう。

設備費用が高額である

ソーラーシェアリングは、設備費用が高額であることがデメリットです。

太陽光パネルの下に農作物を作付けするために架台が高くなり、耐久性も必要なためです。部材の費用も工事費用も高額になります。

ただし、農地であるため固定資産税が節税できること、売電収入と農業収入の両方が得られることなどにより、設備費用は回収できると考えられます。

農作業がしにくくなる

ソーラーシェアリングは、農作業がしにくくなることがデメリットです。農地に支柱が設置されるためです。

たとえば、トラクターなどの大型機械を使用する場合には、支柱を避けて走行しなければなりません。ただし、大型機械を使わないのであれば、問題にはならないでしょう。

融資されにくい

ソーラーシェアリングの場合、融資されにくい点がデメリットです。なぜなら、設備投資が高額であるため、融資が必要であるケースが多いためです。

ソーラーシェアリングは、営農の継続要件があるため、営農が後継者問題などにより中断されるリスクがあります。

以上から金融機関はソーラーシェアリングへの融資に対して積極的でないと言われています。また、設備費用が通常の太陽光と比較して高額であることも積極的でない理由のひとつです。

また、参考として、太陽光発電の電力の買取価格を見てみましょう。

固定買取価格
出典:経済産業省資源エネルギー庁「FIT・FIP制度 買取価格・期間等

買取価格は低下傾向にあるため、金融機関の審査に通ることが厳しくなっているとも言われています。

ソーラーシェアリングの失敗事例

ソーラーシェアリングの失敗事例にはどのようなものがあるのか見てみましょう。

以下では失敗事例として、「農業収入の減少」と「地域住民に理解してもらえないこと」の2つについて紹介します。

農業収入の減少

ソーラーシェアリングの失敗事例として代表的なものは、農業収入の減少です。

ソーラーシェアリングの設置条件として、「同年の地域の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減収しないこと」(出典:農林水産省「営農型太陽光発電設備について」)が定められているためです。

たとえば、地域の平均的な単収に対して、8割以下の単収となった場合、その状態が数年間続いてしまうと、設備の撤去を命じられてしまうかもしれません。

地域住民に理解してもらえない

地域住民に理解してもらえないことは、ソーラーシェアリングの失敗事例のひとつです。ソーラーシェアリングの導入によって地域住民との軋轢を生み出してしまうと、続けていくことに支障をきたすケースがあるためです。

たとえば、周辺に近隣農家の農地がある場合、太陽光パネルによって発生する日陰が、他人の農地にかかってしまうことがあります。その際には、十分な説明を行い、理解を得ることが必要です。

地域住民に理解してもらえないと、ソーラーシェアリングを導入しても、継続していくことは難しくなるでしょう。

隣地からの理解が得られないといった農地トラブルについては、以下の記事で詳しくまとめています。

関連記事 太陽光発電の農地トラブル

【2023年版】ソーラーシェアリングに関わる補助金

ソーラーシェアリングに関わる補助金には、さまざまな種類があります

ここでは、ソーラーシェアリングの補助金について次の3つについて紹介します。

ソーラーシェアリングに関わる補助金
  • FIT制度
  • 農林水産省の事業「みどりの食料システム戦略推進交付金」
  • 自治体からの支援

該当する補助金は、しっかりと活用して、ソーラーシェアリングを導入しましょう。

固定価格買取(FIT)制度

経済産業省が定めているFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)とは、「再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度」です。

低圧区分(10~50kW)のFIT制度には、少なくとも30%の自家消費が義務付けられています。ただし、ソーラーシェアリングにおいては、災害活用を条件として、自家消費の義務要件が免除されています。

関連記事 固定価格買取(FIT)制度とは

農林水産省の事業「みどりの食料システム戦略推進交付金」

農林水産省の事業「みどりの食料システム戦略推進交付金」の中には、「営農型太陽光発電のモデル的取組支援」があり、これがソーラーシェアリングの支援に該当します。

太陽光パネル、架台などの太陽光発電設備の導入に際して、最大で費用の1/が2補助される仕組みです。

みどりの食料システム戦略推進交付金の詳細は、こちらを参照してください。

自治体からの支援

各自治体の中にも、それぞれ独自にソーラーシェアリングを支援する仕組みを持っているケースがあります。

一例として、神奈川県の支援事例が以下のとおりです。

神奈川県の支援事例
  • ソーラーシェアリングの導入に際して、手続きから発電設備の設置工事までを支援するサービス
  • 自家消費型のソーラーシェアリングに対する補助金制度
  • ソーラーシェアリングの信用保証制度

まずは、農地のある自治体が、どのようなソーラーシェアリング支援の仕組みを持っているのか、問い合わせてみましょう。

ソーラーシェアリングに関するよくある質問

ソーラーシェアリングに関して、よくある質問と回答をまとめました。

Q
ソーラーシェアリングとはどういう意味ですか?

ソーラーシェアリングとは、「農地において農業をしながら太陽光発電もするシステム」という意味です。

日光を、農作物と太陽光パネルで分け合っていることから、「ソーラーシェアリング」と呼ばれています。営農型太陽光発電とも呼ばれます。

Q
ソーラーシェアリングの設置条件は?

ソーラーシェアリングの主な設置条件は以下のとおりです。

  • 営農が適切に継続されていること
  • 農作物の⽣育に適した⽇照量を保つための設計であること
  • 簡易な構造で容易に撤去できる支柱であること
  • 設備を撤去するのに必要な資金や信用があること
Q
ソーラーシェアリングの初期費用はいくらですか?

50kWの発電設備、遮光率が35%と仮定すると、ソーラーシェアリングの初期費用は1,200万円前後です。

Q
ソーラーシェアリングに適した作物は?

ソーラーシェアリングに適した作物は、半陰性植物ではイチゴ、ホウレンソウ、コマツナ、ネギ、カブ、アスパラガス、ジャガイモなどです。

また、陰性植物では、ミツバ、クレソン、ニラ、シソ、フキ、ミョウガ、キノコ類などです。

Q
ソーラーシェアリングの遮光率は?

ソーラーシェアリングの遮光率は、30〜40%になるように設定されるのが一般的です。

Q
ソーラーシェアリングの普及率はどのくらい?

農林水産省が公表している資料「営農型太陽光発電設備設置状況等について(令和2年度末現在)」によると、2020年度に営農型太陽光発電設備の設置のために農地の一時転用を受けた件数は、過去最高の779件でした。累計では、3,474件となっています。

ちなみに、2020年における農業経営体数は全国で1,076,000件ですので、普及率を計算してみると、0.32%です。

ソーラーシェアリング まとめ

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは、農地において農業をしながら太陽光発電もすることです。作付けする作物を適切に選べば、農業収入と売電の両方が得られるため、安定した農業経営ができます。

ただし、20年間継続しなければならない、設備費用が高額である、農作業がしにくくなる、融資されにくいなどのデメリットをクリアしなければなりません。

ソーラーシェアリングに関わる補助金なども活用して、ソーラーシェアリングの導入を検討してみましょう。

監修
アスグリ編集部
アスグリ編集部
株式会社GRITZ
運営元である株式会社GRITZは、野立て太陽光発電所を土地取得-開発-販売まで自社で行っています。自然環境に影響が出ないように、耕作されていない農地(休耕地)に野立て建設しています。自然エネルギーの普及は、脱炭素社会を目指すうえでは欠かせません。当社のビジネスを通じて、カーボンニュートラルな地球に貢献することをミッションとしています。
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