カーボンニュートラルの矛盾点・問題点とは? おかしい・意味がないと言われる理由も紹介
「カーボンニュートラルを目指す意味がないって本当なの?」
「取り組みの矛盾点や問題点を知りたい」
日本を含めた世界中の先進国で2050年の実現に向けてカーボンニュートラルが取り組まれていますが、矛盾点や問題点があると聞いて不安な方も多いのではないでしょうか?中には、太陽光発電の設置など環境対策に取り組む意味がないのではないかと気になる方もいるはずです。
この記事では、以下についてわかりやすく解説します。
カーボンニュートラルに矛盾点はある? おかしい・意味がないと言われる理由
カーボンニュートラルについて「やっても意味がない」「胡散臭い」といった話を聞き、どのような矛盾点があるか気にしている人も多いでしょう。まずは話題に挙がる矛盾点を詳しく説明します。
- 矛盾点①CO2の排出量実質ゼロの矛盾
- 矛盾点②バイオマス発電の矛盾
- 矛盾点③日本だけが取り組むカーボンニュートラルの矛盾
- 矛盾点④脱炭素と生態系の矛盾
- 矛盾点⑤国民生活への影響に関する矛盾
またカーボンニュートラルの概要を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。取り組みに関する情報をわかりやすく解説しています。
関連記事 カーボンニュートラルとは
CO2の排出量実質ゼロでは根本的な解決が難しい
カーボンニュートラルの取り組みで宣言されている「CO2の排出量実質ゼロ」という考えに矛盾があると言われています。以下に、環境省が示す実質ゼロの意味を掲載しました。
「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」※ から、植林、森林管理などによる「吸収量」※ を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。
※ここでの温室効果ガスの「排出量」「吸収量」とは、いずれも人為的なものを指します。
引用:脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
一見すると「CO2を出さない社会にする取り組み」だと感じますが、実際にはCO2をゼロにできるわけではありません。
根本的な考え方としては、CO2は減らすけれど、減らせない分については環境対策などを実施して帳消しにするのがカーボンニュートラルの最終地点です。
「脱炭素」「ゼロ」など、まったくCO2を出さないというキーワードや印象が表に出すぎているため、矛盾していると言われています。
バイオマス発電を運用するためにCO2が排出される
カーボンニュートラルの取り組みでは、バイオマス発電と呼ばれる地球環境に優しい発電技術が運用されています。しかし結局はCO2を排出する発電であるため、矛盾した取り組みだと言われているようです。
家畜の糞尿や生ごみ、汚水・汚泥などを発酵させて生み出したメタンガスを使い電気を発電する技術のことです。生物資源を利用するため、環境に優しい発電方法だと言われています。
もちろん、バイオマス発電はCO2を吸収する生物資源を燃料にして発電しているため、全体を俯瞰的に見ればCO2排出量が増加しません。とはいえ、一般の目線から見るとCO2を排出すること自体が変わらないため、取り組みに矛盾があると言われています
カーボンニュートラルを日本だけが達成しても意味はない
カーボンニュートラルの取り組みは世界的に実施されており、2021年4月時点で125ヵ国と1地域が2050年の実現に向けて取り組むと表明しています。
しかし、世界のCO2排出量の合計4割を占める中国・インドが環境対策に取り組んでいません。
また日本は世界で3.2%のCO2排出量であることから、排出量が小さい国だけが取り組みを達成しても効果が薄いと考えられています。
カーボンニュートラルは大規模な排出量を占める国々が取り組むことが重要であるため、日本だけ取り組んでも意味がないといった声があるようです。
脱炭素の取り組みで生態系が崩れるかもしれない
日本が取り組んでいる脱炭素に向けた環境対策の影響で、生態系を崩してしまうのではないかと懸念されています。特に矛盾点として挙げられているのが、発電施設を設ける際に生まれる次の生態系への影響です。
- 太陽光発電施設を設けるために森林を伐採している
- 水力発電の設置で河川の生態系が変化する
- 海上風力発電の設置により海の生態系が変化する
環境対策というプラスの裏には、生態系の変化や減少といったマイナスな面が隠れています。近年では山全体を覆うメガソーラー開発なども実施されているため、脱炭素に向けた取り組みこそが環境破壊をしていると、矛盾に関する声が挙がっているようです。
企業における脱炭素の取り組みを知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。実施するメリット・デメリットや取り組み事例を紹介しています。
関連記事 脱炭素経営とは
環境対策で国民の生活が困窮しやすくなる
現在、日本で実施されている環境対策の影響で、国民の負担が増加します。参考として、環境対策が国民の生活に与える影響を以下にまとめました。
- 年額1,000円を徴収される「森林環境税」
- 電気代に上乗せされる「再エネ賦課金」
とくに、電気を使った分だけ徴収額が増える再エネ賦課金は、国民生活を圧迫する重税だと言われています。少子高齢化の影響で必要となる社会保険料の増加や消費税の増額に加え、環境対策でも増税を受けるため、逆に国民生活が悪化すると不安視されているようです。
再エネ賦課金の概要を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
関連記事 再エネ賦課金とは?
カーボンニュートラルの実現における3つの問題点
カーボンニュートラルには、考え方や取り組みに関する矛盾だけではなく、実現するための問題点が複数あると言われています。目標達成の壁として立ちはだかる問題を整理しました。
- 問題点①莫大なコストがかかる
- 問題点②環境対策の明確な実証が難しい
- 問題点③火力発電に依存している日本で対策が難しい
莫大なコストがかかる
カーボンニュートラルを実現するためには、莫大なコストがかかります。参考として、国民や企業にかかる負担を以下にまとめました。
- 発電施設の新設・移設の負担
- 製造業における材料変更の負担
- 国民の増税による負担
金銭面の負担はもちろん、企業が取り組む際の手間が発生します。環境対策は準備なしにできるものではないため、社会全体で協力して取り組むことが欠かせません。
環境対策の明確な実証が難しい
カーボンニュートラルの取り組みでは、CO2を本当に実質ゼロにできたのかわからないことが問題です。まず、カーボンニュートラルの考えである「CO2の排出量実質ゼロ」は、以下の計算式によって算出されます。
実質的なCO2排出量=CO2排出量-吸引量
- 排出量:CO2を含む温室効果ガスを排出した量
- 吸引量:植林等によって削減できると見込まれる温室効果ガスの量
しかし、計算に用いる「排出量」「吸引量」は推定値となる係数などを用いて計算しなければなりません。もちろん過去の実証実験等に基づく値を使ってはいますが、明確な実証ができないことも問題として挙げられます。
火力発電に依存している日本で対策が難しい
CO2を減らすことが目的のカーボンニュートラルの取り組みは、日本が火力発電に依存している影響で達成が難しいと言われています。なぜなら、火力発電は石炭といった化石燃料等を利用して、大量のCO2を排出するためです。
参考として、日本における発電の割合を以下に掲載しました。
国内で発電される電力の7割程度が火力発電であることから、別の発電方法への転換は困難を極めます。近年ではCO2を排出しない太陽光発電の活用なども増加傾向にありますが、2050年までに転換できるのかわからない状況です。
関連記事 火力発電のメリット・デメリット
カーボンニュートラルの取り組みをやらないとどうなるのか
カーボンニュートラルに対し「矛盾している」「おかしい」「胡散臭い」といった話もでていますが、結論としてカーボンニュートラルは重要な取り組みです。例えば、カーボンニュートラルに取り組まなければ、世界中で次のような問題が起きてしまいます。
- 地球温暖化により2030年には世界の平均気温が1.3℃上昇する
- 気候変動による豪雨・災害のリスクが高まる
- 異常気象により一次産業が経済的な打撃を受ける
- 生態系が変化して食糧問題に発展する
気温の上昇によって生き物が住みにくい世界になることはもちろん、気候変動の影響を受けて事故などが多発するかもしれません。また、環境の変化によって生態系が崩れ、食糧問題につながるおそれもあります。
1ヵ国で実施できる対策は限られていますが、世界がひとつになって取り組めば、今からでも環境問題の解決が可能です。確かに大変なコストはかかりますが、将来の住みよい環境をつくるためにも欠かせない取り組みだと言えます。
カーボンニュートラルの矛盾に関するよくある質問
- カーボンニュートラルはいったい誰が言い出したの?
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カーボンニュートラルの発案者は、ノルウェーの「イェンス・ストルテンベルク」首相です。2007年に国家レベルでカーボンニュートラルを実現することを政策目標として発表しました。
またイェンス首相の発言をきっかけとし、同年、コスタリカの大統領もカーボンニュートラルを宣言しています。そして2017年にパリで開かれたサミットでは、日本を含む世界各国がカーボンニュートラルを宣言しました。
- カーボンニュートラルにはどんな欠点があるの?
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カーボンニュートラルの欠点は次の通りです。
- 取り組みの実施に莫大なコストがかかる
- 既存の発電方法(火力発電)からの移行が難しい
- 環境対策により増税として国民負担が増える
既存の発電スタイルから転換を求められるほか、再生可能エネルギーの導入などにも費用がかかります。あわせてカーボンニュートラルの取り組みは税収によってまかなわれているため、国民負担が増えることも欠点です。
- カーボンニュートラルの反対意見の内容とは?
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カーボンニュートラルについて、環境省に寄せられている反対意見を抜粋しました。
- 核物質はとても人の手に負えない危険かつ有害な代物であり、原子力エネルギーの利用には反対。
- カーボンプライシング施策のさらなる導入で企業負担が増えることは、国内企業の国際競争力の低下に繋がるものであり、従業員の雇用や生活にも大きな影響を与えることになるため、強く反対する。
- 炭素税および排出量取引制度の効果等の十分な説明が行われておらず、これらの制度の導入には反対。
なかでも反対意見として寄せられているのが増税問題です。財務省の発表によると日本の国民負担率は45.1%(財政赤字を加えた場合は50.9%)とおよそ収入の半数を占めています。
環境対策の取り組みを続けた場合、政府によるさらなる増税が起こるおそれがあるため、費用的コストに関する問題が話題になっているようです。
- 世界的にカーボンニュートラルは実現しているの?
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カーボンニュートラルの実現に向けて宣言をする国々は増えていますが、具体的な削減状況を発表できている国は極めて少ない状況です。
とはいえ、世界各国ではさまざまなカーボンニュートラルに向けた取り組みがスタートしています。日本貿易振興機構(ジェトロ)では、環境対策に関する最新情報が公表されているため、今後の動向を探るために定期的に確認してみてはいかがでしょうか。
まとめ|「カーボンニュートラルは嘘」「脱炭素は胡散臭い」というのは間違い
カーボンニュートラルについてマイナスな意見をよく聞きますが、取り組むことにより環境問題の解決につながる可能性は高まります。
確かに環境対策の課題や問題は山積みですが、着実に脱炭素に向けた活動が進んでいます。日本では2030年までの目標、そして2050年までの目標の2段階で取り組みが実施されているため、今後の動向から目が離せません。