太陽光発電の出力制御とは? 仕組みやルール、2024年最新の現状と対策を解説
「太陽光発電所で作った電気を買ってもらえない」という話を聞いたことはありますか?
「出力制御(出力抑制)」は、FIT太陽光投資を行っている投資家や事業者にとっては、作った電気を売却できないので収益に直結する大きな問題です。
そこで本記事では、出力制御(出力抑制)の仕組みと現状、今後の出力制御の見通しについて説明します。
今後の太陽光投資戦略をどのように考えるべきかについてもまとめているため、参考にしてください。
当サイトでは、太陽光発電投資についても詳しく解説しています。失敗のリスクやデメリット、投資戦略について知りたい方は参考にしてください。
出力制御(出力抑制)の仕組みとは?
出力制御(出力抑制)は、以下の2つにより起きます。
- 需給バランス(電力の供給が多い)
- 送電線の容量(電力系統の問題)
需給バランスによる出力制御
「需給バランス」により出力制御が必要な理由は、電力の需要と供給にギャップが生じるためです。
この需要と供給のバランスが崩れると大規模停電が起こります。
電力の供給が少なくて停電が起こるのはわかりやすいですが、供給が多すぎてもバランスが崩れて停電になってしまうのです。
優先給電ルール
出力制御は、「優先給電ルール」に基づいて対応されます。
優先給電ルールとは、法令などによって定められた、出力制御の条件や順番のルールのことです。これにより、電力の需要と供給のバランスを保っています。
具体的には、以下の順番で出力制御を行います。
- 火力発電所・揚水式水力発電の調整
- 地域間連系の利用
- バイオエネルギーの調整
- 太陽光と風力の抑制
- 原子力、水力、地熱の調整
太陽光投資家にとっては、せっかく発電した再生可能エネルギーを捨ててしまうことになり、売上(収入)も減る投資リターンに直結する問題です。
しかしながら、電力供給の安定性と電力系統の保護を最優先とした処置なので、出力制御が起こることを前提に太陽光発電投資を行う必要があります。
送電線の容量による出力制御
「送電線の容量(電力系統の問題)」による出力制御については、国も再生可能エネルギーを普及させるためには解決すべき課題だと認識しています。
FIT法が2012年に施行されたことをきっかけに、太陽光発電所を含め再生可能エネルギー普及は進んでいますが、送配電網の整備が追いついていないのも大きな原因であり課題です。
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日本政府は2050年カーボンニュートラルを達成させる為に、再生可能エネルギーの発電所を促進させるだけでなく、再エネ発電所の大量導入を見据えた電力ネットワークを進めて行く必要があると認識しています。
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具体的には、以下のようなことを計画しています。
- ネットワークの構築:北海道〜本州間の海底直流送電の整備
- 東西の周波数変換設備の増強(50/60HZ変換)
- 系統整備「調整力の確保」蓄電池の導入加速
- など
2023年3月、政府は2050年までに7兆円の投資が必要と試算し、具体的に計画して行くと発表しました。
インフラの投資・整備には10年単位の時間がかかると考えられます。当面の間、再エネ発電所の開発が先行して進むことにより、出力制御(出力抑制)が増える事が予想されます。
出力制御の現状
太陽光発電投資をしている方は、投資時に以下のようなアドバイスを聞いたこともあると思います。
電力需要が多い都市圏の「東京電力エリア」、また「中部電力エリア」「関西電力エリア」では、出力抑制が起きにくいと想定されていました。
しかし、2023年4月に中部電力で、2023年6月に関西電力で出力制御が実施されました。
本記事執筆時現在(2023年10月)、出力制御(出力抑制)を実施していないのは東京電力エリアのみとなっています。
しかし、東京電力パワーグリッド株式会社(東京電力エリア)が2024年度における出力制御見通し(短期見通し)を報告しました(2023年10月16日第48回系統ワーキンググループ)。
ノンファームで接続した太陽光に対して、出力制御の可能性があるとのことです。具体的な対象系統は「154kV上越幹線」「66kV玉諸線」となっています。
出力制御のルール
出力制御ルール(カテゴリー)は3種類あります。
どのルールが適用されるかは対象電力会社と規模、接続申込時期によって異なります。
旧ルール | 新ルール | 指定ルール | |
---|---|---|---|
無補償での出力制限上限 | 年間30日 | 年間360時間 | 無制限 |
出力制御機器の設置義務 | なし、オフライン可能 | あり、オンライン | あり、オンライン |
低圧太陽光に関して、2015年1月25日以前(九州電力のケース)は出力制御を免れている認識だったかも知れません。しかし、2021年4月から出力制御の対象が拡大し、10kw以上の太陽光発電所すべてが出力制御の対象となりました。
以下は、東京電力の出力制御ルールです。
これまで出力制御対象外でオンライン制御システムが設置されていない発電所に対する対策として「経済的出力制御(オンライン代理制御)」が導入されました。
経済的出力制御(オンライン代理制御)とは?
「経済的出力制御(オンライン代理制御)」とは、オフライン事業者が行うべき出力制御を、オンライン事業者が代理で実施することにより、代理制御の対価を受け取る仕組みです。
出力制御機器を新たに導入するコストをカットして、公平に出力制御できる良いスキームです。
またオンラインで一元制御することで、オフライン&オンラインで制御するよりも、再生可能エネルギー出力制御量全体が2割程度低減する効果もあると見込まれています。
出力制御(出力抑制)の見通しと抑制量の規模感
捨てられた再エネ電気の規模感
それでは実際に、どのくらいの再エネ電気が無駄に捨てられたのでしょうか?
昨年度(2022年)実績を調べると、日本全エリアで5.7億kWhと言われています。仮に電力の価値を1kWh13円と仮定すれば、約74億円分もの価値ある電力を捨てたことになります。
逆に、再エネ電源保有投資家や事業者は74億円分の売上の機会を損失したことになります。
出力制御の見通し:今後も拡大する
2023年度には、初めて中部電力、北陸電力、関西電力でも出力制御が実施されました。また2023年G7広島サミットの首脳宣言では再生可能エネルギー導入目標も明記されました。
7カ国合わせた太陽光発電の導入量は、2030年までに10億kw以上と現状の3倍強です。日本の太陽光発電所の導入目標は少なくとも「120GW」は必達で、現状の2倍を想定しています。
以上より、日本では太陽光発電所、再生可能エネルギー発電所の導入ペースは鈍ることなく、ピッチを上げると予想されます。
この流れは、出力制御(出力抑制)が、今後も拡大することを意味しています。ますます需給バランスの不一致が広がるためです。
各エリアの出力制御率
国は再エネ出力制御を低減する対策を検討していますが、一定の対策をした仮定のもとに、各エリアの出力制御率の長期的見通しを試算しています。
結果、各エリアの「出力制御率」は以下のようになっています。
- 北海道49.3%
- 東北41.6%
- 東京6.3%
- 中部5.8%
- 北陸3.7%
- 関西8.8%
- 中国28.6%
- 四国2.1%
- 九州34%
- 沖縄1.7%
上記はあくまで一定の仮定下での試算です。各仮定の置き方によりシミュレーションは大きく変わります。トレンドとして理解し、今後の太陽光投資戦略の参考としてください。
出力制御率が1番高い「九州電力エリア」の2022年度実績が3.00%です。シミュレーションでは、東京電力エリアでさえ2022年度九州電力エリアの2倍の出力制御率が試算されていることがわかります。
超長期2050年までのトレンドを見通すと、電力系統増強プラン(7兆円投資)だと出力抑制率を12%以内に抑えられる予測となっています。
出力制御の増加を見据えた対策・投資戦略
出力制御は電力会社が行うため、自分が保有している太陽光発電所だけで回避することはできません。
また需給対策や系統対策は国の政策になるため、計画と進捗を確認することしかできません。コントロールすることはできないのです。
投資家が出力制御を見据えて取れる投資戦略は、以下の2つが挙げれられます。
- 蓄電池を導入するリパワリング戦略
- 太陽光発電所の売却&追加購入でポートフォリオを考える
① 蓄電池を導入するリパワリング戦略
日中ピークカットされた電気を蓄電池に充電し、夕方以降に放電し売却する戦略です。
ただし、増設した蓄電池から放電された電力はFIT価格で売却できません。
また設置方法によっては、既存のFIT価格で売却する権利が消滅する可能性があるので注意が必要です。
蓄電池だけでなく、「PCS(パワーコンディショナー)」の交換も有効です。
できるだけFIT期間中にたくさんの電力を発電することは非常に投資効果があります。
最近ではリパワリング用のPCSを大手メーカーが発売しています。交換により発電量が5%増というデータもあります。
リパワリングの方法や、メリット・デメリットについては以下の記事を参考にしてください。
関連記事 リパワリングとは
② 太陽光発電所の売却&追加購入でポートフォリオを考える
現在、エネルギー価格の上昇や再生可能エネルギー需要の高まりの影響もあり、中古太陽光発電所の取引価格は高値で安定しています。
乗用車の場合、新車の方が中古車より高いのが一般的ですが、太陽光発電所は中古案件(セカンダリー)の方が人気があります。
理由は、立地条件によって発電量が変わり個別性のある太陽光発電所投資において、発電量の実績(トラックレコード)があることで購入者(投資家)は投資判断をしやすいためです。
また、購入後すぐに収入を得られるため、キャッシュフロー面も人気の理由です。また新規案件に存在する建設リスクやトラブルが無いのも安心して投資できるポイントとなっています。
エリア分散のための追加購入
今後も太陽光発電投資を継続拡大の考えであれば、エリア分散を考え追加購入も検討するとよいでしょう。
エリア分散により、出力制御(出力抑制)の収益マイナスのインパクトをポートフォリオで分散できます。
保有物件売却
出力制御の増加による収入減の前に高値で売却を検討するのも、ひとつの投資戦略といえます。
保有中の太陽光発電所中古案件(セカンダリー)を売却を検討すべき投資家は、以下のような方です。
- 太陽光投資の主たる目的が「節税」だった。
- 今後、太陽光投資を継続するつもりがない。
- 売電収入が減ったため太陽光発電をやめたい。
- 副業で投資して順調に収入は入っているが、今後、太陽光発電所のメンテナンス費用が跳ね上がるのが心配だ。
- パネル廃棄処分等々の対応をする時間がない。
- 購入した業者が倒産や連絡不通でメンテナンスもせず放置してしまっている。
- 改正FIT法の対応ができていない(フェンス、標識の設置)。
出力制御(出力抑制)の量が増える前に、一度売却を検討してみてはいかがでしょうか?
保有物件売却について相談に乗ります!
出力制御に関するよくある質問
出力制御に関しては、補償や義務に関して質問があります。以下に回答をまとめました。
- 出力制御を実施した場合、補償はありますか?
-
旧ルールと新ルールの場合は補償があります。
以下の日数・時間を超過して出力制御を実施した場合は補償対象になります。
旧ルール・新ルールの補償- 旧ルール(制御対象):30年/年
- 新ルール(制御対象):太陽光360時間/年、風力720時間/年
無制限・無補償ルールの場合は、補償がありません。
- 出力制御(出力抑制)は義務? しないとどうなる?
-
出力制御は義務になります。
出力制御に応じない場合は、「連系に関するサービス停止、契約解除等」の措置がとられる可能性があります。
出力制御(出力抑制)まとめ
太陽光発電投資をする上で、出力制御(出力抑制)は避けて通れないルールです。
投資家側(発電所保有者)からすると、出力制御の実施が増えることは収入に直結するマイナス要因です。
本記事更新時では、出力制御が行われていないのは東京電力エリアのみですが、東京電力エリアでさえ出力制御(出力抑制)が実施されると想定されます。
保有している発電所エリア(電力会社)の出力制御ルールを理解し、今後の収入(売電金額)にどのくらいの影響があるかどうかをシミュレーションしておく必要があります。