耕作放棄地の問題とは? 増加原因と解決策、対策事例を紹介
近年、全国的に耕作放棄地が増え続けています。実際に農地を所有していても耕作はできずに、「何とか活用できないものか?」「このままだと耕作放棄地になってしまうのではないか?」とお困りではありませんか?
この記事では、耕作放棄地に関する以下について解説します。
耕作放棄地問題についてお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
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耕作放棄地とは
耕作放棄地について、その定義と現状を解説します。
耕作放棄地の定義
耕作放棄地とは、「所有している耕地のうち、過去1年以上作付けせず、しかもこの数年の間に再び作付する考えのない耕地」と、農林業センサスにおいて定義されています。
つまり、農家の耕作意志を調査した結果、当面作付けされないだろうとされた耕地のことです。
ただし、5年に1度調査が行われる「農林業センサス」では、2020年から耕作放棄地を把握する項目が廃止されました。
耕作放棄地の現状
全国の耕作放棄地の面積の推移を、以下の表にまとめました。とくに近年、増加し続けている様子がわかります。
年 | 耕作放棄地面積(万ha) |
---|---|
1975 | 13.1 |
1980 | 12.3 |
1985 | 13.5 |
1990 | 21.7 |
1995 | 24.4 |
2000 | 34.3 |
2005 | 38.6 |
2010 | 39.6 |
2015 | 42.3 |
耕作放棄地の面積減少に関するこの傾向は、今後も続いていくと考えられています。
耕作放棄地が増えている理由
なぜ耕作放棄地が増加傾向にあるのでしょうか。主な理由は2つあります。
- 農家の高齢化・後継者不足
- 農産物価格の低下
農家の高齢化・後継者不足
農家の高齢化が進んだり、後継者が不足したりすると、耕作放棄地が増えてしまいます。なぜなら、労働力が不足することによって、所有する農地の管理ができなくなってしまうためです。
参考として、農林水産省「令和3年度食料・農業・農村白書」に掲載された「年齢階層別基幹的農業従事者数」の図を見てみましょう。
65歳以上の階層が全体の70%を占め、高齢化が進んでいることがわかります。
また、もうひとつの参考として、同資料に掲載された「基幹的農業従事者数」の図を見てましょう。
後継者が不足し、農家が年々減っていることがわかります。
農家の高齢化・後継者不足が進展すると、農地が耕作されずに、耕作放棄地が増えてしまうのです。
また、農地を相続した場合に、耕作ができなければ耕作放棄地となってしまうケースもあります。
農業資材の高騰
農業資材が高騰すると、耕作放棄地が増えてしまいます。なぜなら、農家の収益が下がってしまい、採算が合わなくなって耕作をやめてしまうためです。
参考として、2015年を100とした場合の、農業物価類別価格指数のうち「農業生産資材類別年次別価格指数」のデータを見てみましょう。
年 | 農業生産資材類別年次別価格指数 |
---|---|
1975 | 65.1 |
1980 | 80.2 |
1985 | 80.8 |
1990 | 78.7 |
1995 | 78.6 |
2000 | 80.1 |
2005 | 82.3 |
2010 | 90.4 |
2015 | 100 |
2020 | 101.8 |
農業資材の価格が年々上昇しています。そのため、耕作放棄地が増える原因になっています。
耕作放棄地が引き起こす問題
また、農業資材の高騰などによっても、農業生産性は低下してしまいます。
耕地が耕作放棄地になることによって、さまざまな問題が発生します。耕作放棄地が引き起こす4つの問題について解説します。
- 雑草等により近隣農家に迷惑がかかり、苦情になる
- 食料自給率が低下する
- ごみの不法投棄が発生する
- 災害リスクが高まる
雑草等により近隣農家に迷惑がかかり、苦情になる
これまで農地として利用されていた土地が、耕作放棄地になってしまうと、近隣農家に迷惑をかけることになり、苦情を寄せられることもあります。
以下では、「雑草の発生」と「害虫の発生・野生動物の侵入」について説明します。
雑草の発生
農地に作物が作付けされている場合には、収穫量に大きな影響があるため、雑草が発生しないように管理されています。
耕作放棄地になってしまうと、定期的に草刈りをしなければ雑草が繁茂してしまうため、近隣の農家にも種子が飛散したりして、迷惑をかけてしまう可能性があります。
以下の画像は、人の背丈を超える2メートルほどの雑草が生い茂った耕作放棄地です。
耕作放棄地は、雑草が繁茂して周辺から苦情が来ないように気をつけなければなりません。草刈りをするか、農地売却して、適切な管理が必要です。
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耕作放棄地の草刈りや雑草対策については、以下の記事を参考にしてください。
関連記事 耕作放棄地の草刈り
関連記事 休耕田の雑草対策
害虫の発生・野生動物の侵入
耕作放棄地は、害虫対策などもされないため、害虫が発生しやすい状態です。近隣農家の農地に害虫が広がるリスクがあり、迷惑をかけてしまいます。
以下の耕作放棄地は、雑草が繁茂し、スズメバチが生息して、隣接地での耕作や草刈りも危険な状況です。
また、雑草や虫が増えた場合には、野生動物が侵入してきます。耕作放棄地にシカやイノシシが出没すると、近隣の農家にも悪影響を与えてしまうことがあるため、注意が必要です。
食料自給率が低下する
耕作放棄地が増加すると、食料自給率が下がる原因になります。なぜなら、農作物を作付けする土地が減るからです。
参考として、日本の食料自給率の推移を見てみましょう。
日本の食料自給率が低下傾向にあることがわかります。耕作放棄地が増加することが、食料自給率を下げる要因になっているのです。
国内の農業を維持して食料危機に備えることは、「食料安全保障」と呼ばれる重要な課題です。必ずしも常に輸入食料が確保できるとは限らないため、耕作放棄地を増やさないことは重要です。
ごみの不法投棄が発生する
耕作放棄地には、ごみの不法投棄が発生するリスクがあります。なぜなら、管理がされず雑草が繁茂しているような状態になると、ごみを捨てても目立たないためです。
たとえば、環境省の資料には次のような事例が紹介されています。
解体業者が建設系廃棄物を、自宅の敷地と親戚所有の近隣農地で保管し、県からの指導を無視し撤去に応じませんでした。県警によって逮捕され、有罪が確定し、懲役刑2年・執行猶予3年、罰金刑100万円が課せられました。
このように耕作放棄地にごみが不法投棄されてしまうと、土地の価値が低下するだけではなく、環境破壊にもつながり、近隣住民にも多大な迷惑をかけてしまいます。
災害リスクが高まる
耕作されている農地には、貯水機能があるため、洪水などを抑制する働きを担っています。耕作放棄地になると、保水能力が低下し、洪水が発生しやすくなってしまいます。
また、きちんと管理している農地には、火災を広げない防災機能がありますが、耕作放棄地にはありません。むしろ、枯れ草などに引火すると、火災の原因となるリスクもあります。
耕作放棄地は、災害リスクを高めてしまうのです。
耕作放棄地問題の解決策・対策事例
全国的に耕作放棄地問題の解決が求められています。そのため、耕作放棄地の活用をサポートする仕組みも作られてきました。
耕作放棄地の再生方法となる、4つの解決策・対策事例を紹介します。
- 農地バンク(農地中間管理機構)
- 耕作放棄地再生に対する補助金
- 農福連携
- 耕作放棄地を活用したビジネス
農地バンク(農地中間管理機構)
農地を借りるには農家でなくてはならず、耕作放棄地を借りたいと考える人がいても、簡単には借りられませんでした。
そこで、耕作放棄地を有効に活用するために、2014年にすべての都道府県に農地中間管理機構、通称「農地バンク」が設置されました。
農地を貸したい人から、公的機関である農地バンクが土地を借り、農地を借りたい人に貸し付ける仕組みです。
農地バンクの設立によって、農家ではない人も農地を借りられるようになりました。
耕作放棄地再生に対する補助金
耕作放棄地を再生するためには、草木を除去したり、用排水施設を整備したりするのに、費用がかかります。
耕作放棄地の再生のためには、国の補助金「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金」が利用可能です。
また、地方自治体が耕作放棄地再生に対する補助金を設定している場合もあります。耕作放棄地のある自治体に、補助金がないかどうかを確認してみましょう。
農福連携
「農福連携」とは、農業と福祉が連携することを意味しています。障がい者の農業分野での活躍を通じて、自信や生きがいを創出し、社会参画をうながす取組みのことです。
農業側としては、高齢化が進み後継者不足のなかで、障がい者に対して新たな働き手としての期待が集まっています。
この農福連携が、耕作放棄地問題の解決につながる可能性があります。
なぜなら、農福連携の取り組みの一環として、耕作放棄地の再生に取り組むケースがあるためです。
たとえば、次のような事例があります。
- 農福連携を行い、耕作放棄地を整備・改修し、さつまいもの圃場やミニトマトの農業施設等を設置(農林水産省の資料)
- 障がい福祉事業所や学校・保育園と連携しつつ耕作放棄地をお花畑(蜜源植物栽培)に変えて、ハチミツを生産(環境省「グッドライフアワード」受賞者紹介)
今後、農福連携が推進していくにつれて、耕作放棄地問題の解決策のひとつとなっていくでしょう。
耕作放棄地を活用したビジネス
耕作放棄地を活用して、新たなビジネスを立ち上げるケースもあります。
耕作放棄地は農地であるため、日当たりの良い土地であることが一般的です。そのため、太陽光発電に適しています。
耕作放棄地を農地転用して、太陽光発電をするのが「農地転用型太陽光発電」です。
関連記事 農地転用とは
また、農業を続けながら太陽光発電をする方法は、「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」と呼ばれます。
関連記事 ソーラーシェアリングとは?
耕作放棄地の再生方法のひとつとして、太陽光発電を検討してはいかがでしょうか。
太陽光発電投資など、使われなくなった農地の活用方法については以下の記事をご覧ください。
関連記事 使わなくなった田んぼや畑の活用方法
耕作放棄地に関するよくある質問
耕作放棄地に関して、よくある質問とその回答をまとめました。
- 耕作放棄地問題とは?
-
耕作放棄地問題とは、農作物が作付けされていない耕作放棄地が放置されてしまうことです。その背景には、農家の高齢化・後継者不足、農産物価格の低下などがあります。
- 耕作放棄地が増えるとどうなるか?
-
農地が耕作放棄地になると、次のような問題が引き起こされます。
- 近隣農家に迷惑がかかる
- 食料自給率が低下する
- ごみの不法投棄が発生しする
- 災害リスクが高まる
- 耕作放棄地を再生するにはどうすればいいですか?
-
耕作放棄地の再生方法としては、まず現地調査に基づき再生計画を作成します。基本的な手順は、草木や岩石の除去、必要に応じた除草剤の散布、耕運・整地作業です。耕作放棄地再生に対する補助金が活用できるケースがありますので、自治体などに問い合わせてみることをおすすめします。
- 耕作放棄地が多い県は?
-
2015年の農業センサスによると、耕作放棄地の多い県は、福島県、茨城県、千葉県、北海道、岩手県などです。
- 耕作放棄地の悪影響やデメリットは?
-
耕作放棄地の存在によって、さまざまな悪影響やデメリットが発生してしまいます。
雑草の発生、害虫の発生・野生動物の侵入などによって近隣農家に迷惑がかかったり、苦情が寄せられたりするケースがあります。
また、ごみの不法投棄がされて、環境破壊を引き起こしたり、土地の価格が低下してしまうことも問題です。
さらに、農地が耕作放棄地になると、固定資産税の課税が強化されてしまいます。
社会的にも、食料自給率が低下したり、災害リスクが高まるといったデメリットにもつながります。
耕作放棄地問題 まとめ
耕作放棄地は、農家の高齢化・後継者不足や農産物価格の低下を背景として、近年、増加し続けています。
耕作放棄地を放置していても、メリットはありません。近隣農家に迷惑がかかることをはじめとして、さまざまな問題が引き起こされてしまいます。
近隣住民からの苦情など、農地トラブルについては以下の記事で詳しくまとめています。
関連記事 太陽光発電の農地トラブル
農地バンク、耕作放棄地再生に対する補助金、農福連携、太陽光発電などによって、耕作放棄地問題の解決を目指しましょう。
耕作放棄地を手放したいとお悩みなら「売却」も
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「耕作放棄地の草刈りが大変で、管理できない……」とお悩みなら、売却するのも選択肢です。
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