太陽光パネルの廃棄費用・処分方法は? 太陽光発電設備の廃棄費用積立制度を解説
2012年のFIT法施行以降、急ピッチで太陽光発電所が建設されました。
「FIT期間終了後の太陽光発電所や太陽光パネルの行方は?」「太陽光パネルには有害物質が含まれており、発電事業終了後に放置・不法投棄されるのでは?」と地域からの懸念が健在化しています。
そうした中、「太陽光発電設備廃棄費用積立制度」がスタートしました。
そこで本記事では、「積立制度だけで撤去費用に追加費用は発生しないのか?」「積立はどのようにするの?」「積立金額はいくら?」といった疑問について調査。以下の内容を解説します。
東京電力の一次下請け工事会社で配電工事に従事。東北震災後、太陽光発電所の開発・工事会社に転職し、全国の太陽光発電所開発に携わる。開発実績は1000件以上。10年以上、低圧太陽光発電所、高圧太陽光発電所、屋根上太陽光、住宅太陽光の開発工事経験がある太陽光発電所開発、工事、メンテナンスのプロフェッショナル。
保有免許
- 第1種電気工事士
- 太陽光評価技術者
- 太陽光メンテナンス技師
当サイトでは、太陽光発電投資についても詳しく解説しています。失敗のリスクやデメリット、投資戦略について知りたい方は参考にしてください。
太陽光発電設備廃棄費用積立制度について
太陽光パネルの廃棄問題については、「太陽光発電設備廃棄費用積立制度」への理解が必要です。
ここでは太陽光発電設備廃棄費用積立制度について以下を解説します。
積立制度の必要性と現状の問題点
太陽光発電設備の廃棄処理は、太陽光発電事業者(保有者、投資家)に責任があります。事業者として、廃棄等費用を確保することは当然の責任です。
とはいえ、FIT制度の下で廃棄費用の積立実施をしている事業者は2割以下というのが現状となっています。
FIT終了時に撤去資金を確保できない懸念を担保するために、積立制度が創設されることとなりました。
2022年4月1日施行の改正法において、10kW以上の発電設備については、FITが終了する前の10年間、廃棄費用を積み立てることが義務化されました。
関連記事 固定価格買取(FIT)制度とは
積立制度の概要
太陽光発電設備廃棄費用積立制度の概要が以下になります。
対象 | 10kW以上の全ての太陽光発電所(FIT案件に限る) |
---|---|
金額 | 調達価格/基準価格の算定において想定してきている廃棄等費用の水準 (下の表を参照) |
時期 | 調達期間/交付期間の終了前10年間 |
取り戻し条件 | 廃棄処理が確実に見込まれる資料の届出 |
廃棄費用の積立金額のシミュレーション
仮に2013年度認定(調達価格36円/kWh)の容量100kWの太陽光を保有している場合のシミュレーションをしてみました。
簡易計算ですが、以下のようになります。
- 1年間:年間想定発電量を110,000kW × 1.40円 = 154,000円
- 10年間:154,000円 × 10年 = 1,540,000円
投資収益に対してインパクトのある金額です。
調達価格36円の1.40円が積立額になります。売上の3.88%がキャッシュフローからマイナスされるのです。
太陽光発電設備の廃棄費用積立制度についてよくある質問
太陽光発電設備廃棄費用積立制度については、以下のような質問があります。
積立金額の支払い方法:誰に支払う(管理する)のですか?
買取義務者(電力会社)から認定事業者へ支払われる売電金額か積立金が控除されます。源泉徴収的に行われます。
この積立金は電力広域的運営推進機関(OCCTO)が受け取り、適正に管理することになります。
積立金を取り戻せますか?
太陽光発電設備の全部または一部を解体・撤去する等の場合にのみ、積立金を取り戻せます。
積立金を取り戻す手続きは?
電力広域的運営推進機関(OCCTO)のシステムで取戻申請する必要があります。
取戻申請には印鑑証明、太陽光発電設備の解体撤去費用が確認できる書面(契約書の写し)、産業廃棄物管理表(マニフェス)等の資料をシステム上にアップロードする必要があります。
取戻手続きには一定の期間を要します。
積立金額よりも撤去費用が掛かった場合はどうなりますか?
超過分についても、事業者(排出者)が負担することになります。
積立制度をしているから安心という訳ではありません。
急な傾斜地に設置している場合は、撤去費用が想定以上に掛かる可能性があります。
太陽光発電設備の撤去費用
FIT太陽光発電所投資家は、発電設備撤去費用がいくらかかるのかを想定してFIT終了後の展開を考える必要があります。
土地を保有している場合は、「発電所を継続保有する」か「撤去する」かの2択です。
土地を保有していない場合は、原則賃貸の契約通り太陽光発電設備を撤去し、現状回復をして地権者に返す必要があります。
実際、発電設備の撤去費用はいくらかかるのでしょうか? 以下が太陽光発電設備(パネル含む)の撤去費用試算になります
上記の金額は、現時点(2023年8月)での予測値です。まだ廃棄処理のデータも少ないため、正確な予測はできません。
太陽光パネルの廃棄・処分費用
太陽光パネルのみの処分費用は「kWあたり0.28万円(収集運搬:0.07万円 + 中間処理:0.14万円 + 最終処分:0.07万円)」と試算されます。
仮に95kWの太陽光パネルの場合、26.6万円がかかる計算になります。
この試算金額は、現時点(2023年8月)での予測値です。
住宅用太陽光パネルの撤去・廃棄・処分費用
住宅用太陽光パネル撤去には、「パネル廃棄費用(1枚3,000円)+ 足場台(約10万円)+ 運搬費(約3万円)」がかかると想定されます。
仮に15枚のパネル撤去廃棄処分をする場合、「3,000円 × 15枚 + 10万円 + 3万円 = 175,000円程度」が相場と推察されます。
お住いのエリアや住宅形状によっては足場設置費用や運搬費が想定以上にかかる可能性があります。
パネル廃棄費用は、東京パワーテクノロジー株式会社(東京電力ホールディングス100%子会社)の情報を参考にしています。
太陽光パネルを廃棄する方法
太陽光パネルを廃棄する方法は、住宅用か産業用かで異なります。
住宅屋根上太陽光
住宅の建て替え等に伴う廃棄の場合は、解体業者に依頼します。解体業者経由でリサイクル業者等に依頼して処分することになります。
パネルの不具合による修理交換で廃棄する場合は、施工会社や販売会社に任せます。
太陽光パネルを捨てるだけの場合は、お住いの市区町村の役所に相談することをおすすめします。
FIT認定産業用太陽光
太陽光パネルのみを撤去するケースは、パネルの張替え(リパワリング)する時が想定されます。その際は工事会社に廃棄を依頼すると良いでしょう。
リパワリングの方法や、そもそもの意味については以下の記事をご覧ください。
関連記事 リパワリングとは
太陽光発電設備一式を撤去・廃棄するケースであれば、解体業者に見積もりを依頼する必要があります。
廃棄処理時の注意点
太陽光パネルの廃棄処理時は、以下の2つに注意してください。
- 産業廃棄物の処理を委託する際の委託契約書や、産業廃棄物管理票(マニフェスト)に太陽光パネルであることの明記(メーカー名、型式を記載する事がのぞましい)。
- 被災太陽光パネルの取り扱いには一層の注意が必要です。感電・怪我の防止に加えて水漏れによって有害物質が流出する恐れもあります。
太陽光パネル 廃棄費用や賠償責任の保険
東京海上日動火災保険が2021年12月から専用保険を販売しています。FIT認定を受けた太陽光発電事業者が対象です(設備容量10kW以上~2,000kW以下)。
基本補償で火災または落雷、風災、水災もしくは地震その他の自然災害により太陽光パネルに損害が生じた場合、「廃棄費用」が補償されます。
- 設備容量1kWあたり10,000円(最大1,000万円)
- 地震リスクは1kWあたり2,000円(最大200万円)
また、発電設備の所有・使用・管理等に起因した対人・対物事故に対しても「施設賠償責任」が補償されます。
- 1事故あたり賠償責任:1億円、初期対応費用・事業継続費用1,000万円
- 年間保険料例)設備容量50kWの場合、基本補償の年間保険料は約17,000円
上記に加えて、サイバーリスクに関する特約として、制御システムや遠隔監視システムなどからの不正アクセスによる情報漏洩に対しての損害賠償にも対応しています。
再生可能エネルギーの普及・GX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現のためにも、このような保険商品が必要になります。
住宅用の太陽光パネルは産業廃棄物?
個人住宅に設置した太陽光パネルも産業廃棄物になります。一般廃棄物でも粗大ゴミでもありません。
台風等の自然災害でパネルが破損するケースもあります。その場合は、お住まいの市区町村の廃棄物担当窓口に相談してください。
FIT認定を受けている設備を廃棄した場合は、廃止届が必要になります。
太陽光パネルのリユース・リサイクル
太陽光パネルは「リユース」と「リサイクル」が可能です。2つの違いは以下のとおり。
- 「リユース」は製品を分解せず検査洗浄等をして再利用すること
- 「リサイクル」は製品を分解して、ガラスやアルミを抽出してマテリアルを再資源化すること
それぞれについて詳しく解説します。
太陽光パネルはリユース(再利用)できる?
太陽光パネルはリユースできます。工事用に立てる仮設事務所の屋根上に、リユースパネル(中古品)を設置することもあります。
仮設事務所は工事期間中のみ使用するため、リユースパネルを移動して使うことはRE100を目指す企業にとっても大変良い試みです。
関連記事 RE100とは
リユースパネルを使うことにより、導入費を低減できるメリットもあります。今後、リユースパネルを使う案件も増えてきそうです。
太陽光パネルはリサイクルできる?
太陽光パネルはリサイクルできます。
しかしながら、リサイクル処理場の処理能力が不足しています。また費用面においても、単純に産業廃棄物処理する方が、安価であることが問題です。
国としても太陽光パネルの大量廃棄を問題として受け止めています。太陽光パネル義務化を導入した東京都では、住宅用太陽光パネルリサイクル費用の補助も実施しています。
太陽光パネルの廃棄・処分費用に関するよくある質問
太陽光パネルの廃棄方法や処分費用についてよくある質問と、その回答をまとめました。
- 台風で太陽光パネルが壊れました。放置していると有害物質がでるの?
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太陽光パネルには、少量ですが「鉛、セレン、カドミウム、ヒ素」という人体及び環境に有害な物質を含む製品があります。
産業廃棄物として許可を受けた産業廃棄物処理業者に処理を依頼する必要があります。
- 蓄電池も同時に廃棄できますか?
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蓄電池は危険物です。自治体に相談する必要があります(自治体でも処分できない可能性があります)。メーカーに問い合わせて処分方法を確認することをおすすめします。
設置する前の方は、広域認定制度を取得したメーカー製品を購入するのが良いでしょう。
- 太陽光パネルには有害物質が含まれている?
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太陽光パネルには、鉛・セレン等の有害物質が含まれています。
- 太陽光パネルの大量廃棄問題とは?
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日本国内では2012年FIT制度の導入以降、急速に太陽光発電所が建設されました。2022年末時点では約70GWまで普及しました。さらに2030年には約120GWまでの拡大が予想されています。
普及が急速に拡大するきっかけとなったのがFIT制度でした。FIT制度の買取期間は20年間です。
「買取期間の終了」+「太陽光パネルの寿命」を考えると、2030年以降に太陽光パネルの大量廃棄が発生するにも関わらず、廃棄処理設備不足(太陽光パネル処分場)、リサイクルの仕組み、リユースの仕組みができていないのが、太陽光パネルの大量廃棄問題です。
- 太陽光パネルの寿命は何年?
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太陽光パネルの寿命は、一般的に25~30年程度とされています。
しかしながら、塩害や風害が多い地域では劣化が早まる可能性があるため注意してください。
また、昨今では太陽光パネルの技術進歩により、発電効率と耐久性も向上しています。近年、設置された太陽光パネルは30年以上持つとも言われています。
太陽光パネルの廃棄・処分費用まとめ
太陽光パネルの廃棄・処分は太陽光発電事業者の責任です。「太陽光発電設備廃棄費用積立制度」もスタートしますが、想定以上に撤去・処分費用が掛かる可能性もあります。
また太陽光パネルは有害物質を含んでいるため、適切な処理が必要です。地球環境に優しい再生可能エネルギー投資が、環境汚染に変わってしまいSDGsの趣旨に反します。
関連記事 太陽光発電とSDGsの関係
今後は、太陽光パネルのリユース、リサイクル事業も増加してくる見込みです。太陽光発電事業者として、太陽光パネルの責任ある廃棄・処理が求められます。