ペロブスカイト太陽電池にデメリットはある? 発電の仕組みや特徴を解説
「ニュースでは良い部分が取り上げられているけど、ペロブスカイト太陽電池にもデメリットがあるのでは?」
「ペロブスカイト太陽電池が実用化されるまで、太陽光発電の購入を待つべき?」
太陽光発電の投資を検討している中で、上記のようにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2023年10月に岸田首相が、カーボンニュートラル実現のため、ペロブスカイト太陽電池を2025年までに実用化できるよう対策を推進する考えを公表しています。
しかし、ペロブスカイト太陽電池は量産体制の構築に向けて企業が研究開発している段階で、実用化の壁になるデメリットも残っている状況です。
本記事では、ペロブスカイト太陽電池のデメリットのほか、発電する仕組みや特徴について解説します。
実用化が実現するおおよその時期も分かるようになっているので、投資する太陽光発電に迷われている方は、最後までお読みください。
当サイトでは、太陽光発電投資についても詳しく解説しています。失敗のリスクやデメリット、投資戦略について知りたい方は参考にしてください。
ペロブスカイト太陽電池とは?発電の仕組みを解説
大きな板状の太陽光パネルとは違い、ペロブスカイト太陽電池は薄いシート状の太陽電池です。
国土面積に対する太陽光発電の導入量が主要国で1位の日本は、太陽光パネルの設置に最適な土地が残り少なくなっています。
残っている土地に太陽光発電を設置して脱炭素化を進めるために、シート状のペロブスカイト太陽電池に注目が集まっている状況です。
以下ではペロブスカイトの詳細と、発電の仕組みを説明します。
ペロブスカイトとは
「チタン酸カルシウム」と呼ばれる鉱物が、天然のペロブスカイトです。
ペロブスカイトと呼ばれる理由は、チタン酸カルシウムが特殊な結晶構造をしており、これが「ペロブスカイト構造」と名づけられているためです。
以下の図は、ペロブスカイトの結晶構造を表したものになります。
ヨウ素を主原料としてペロブスカイト構造を持つ化合物を合成し、薄いシート状の基板に塗ったものがペロブスカイト太陽電池です。
発電の仕組み
太陽電池に太陽光を当てて発電する仕組み自体は、従来のシリコン系太陽電池とペロブスカイト太陽電池も同様です。以下は、ペロブスカイト太陽電池の構造を示す図になります。
シート表面に当たった光エネルギーをペロブスカイト層が吸収すると、ホール輸送層と電子輸送層の間に電流が発生してペロブスカイト太陽電池が発電します。
ペロブスカイト太陽電池の特徴
現在ペロブスカイト太陽電池が次世代型として注目されているのは、以下の特徴を持つことが理由です。
- 薄い膜状のため軽い
- 光透過性がある
- しなやかさがある
それぞれの特徴を、具体的に説明します。
薄い膜状のため軽い
強化ガラスで太陽電池を挟んだ太陽光パネルとは違い、ペロブスカイト太陽電池はフィルム形状のため薄く軽量です。
シート状の軽い基板に合成したペロブスカイトを塗布する製造方法が、薄さと軽さを実現しています。
以下の表は、シリコン系の太陽電池とペロブスカイト太陽電池の厚さと重量に関する比較です。
比較 | ペロブスカイト太陽電池 | シリコン系太陽電池 |
---|---|---|
厚さ | 0.5~1㎛(マイクロメートル) | 30~35mm |
重量 | 1~4kg/㎡ | 12~15kg/㎡ |
比較表から、ペロブスカイト太陽電池がとても軽量なことが分かります。これまでは耐荷重がなく太陽光発電の導入を諦めていた屋根でも、ペロブスカイト太陽電池なら導入できるでしょう。
参考:次世代太陽電池 ペロブスカイト太陽電池について|一般社団法人沖縄CO2削減推進協議会
光透過性がある
光を通す性質を持っているのも、ペロブスカイト太陽電池の特徴です。透過性がある特徴を活かしてLow-Eガラスと組み合わせることが、ペロブスカイト太陽電池の用途の1つになります。
実際にパナソニックが開発したガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池を、神奈川県藤沢市のスマートタウンにあるモデルハウスに設置して実証実験が実施されています。
住宅の外観を損なわずにバルコニーや窓ガラスで太陽光発電を導入できるのは、ペロブスカイト太陽電池に光透過性があるからにほかなりません。
しなやかさがある
ペロブスカイト太陽電池は薄膜でシート状のため、フレキシブルという特徴があります。しなやかで柔軟性があり、以下図のように湾曲できるので車の屋根などカーブした所にも設置可能です。
光透過性がある特徴も活かせば、ビニールハウスの屋根のアーチ型に沿ってペロブスカイト太陽電池を設置できるようになります。
農作物をしっかりと育成しながらビニールハウスでの発電が両立できるペロブスカイト太陽電池は、アグリケーションビジネスにも活用できる製品です。
ペロブスカイト太陽電池の3つのデメリット
まだ技術開発の段階にあるペロブスカイト太陽電池がクリアするべき課題は、以下の3つです。
- 変換効率が低い
- 耐久性が低い
- 鉛を使用している
以下では、デメリットの詳細を説明します。
変換効率が低い
ペロブスカイト太陽電池が発明された当時、変換効率はわずか3%程度でした。
日本以外の各国でペロブスカイト太陽電池は研究開発されており、20%以上の変換効率を持つ製品開発に成功した事例が報告されています。
これは研究室レベルの小さい面積での変換効率で、大きい面積になると同じ変換効率にならず安定しないことがペロブスカイト太陽電池の課題です。
以下は、太陽電池の種類別に変換効率の推移を表したグラフです。
太陽電池の中で、ペロブスカイト太陽電池はまだ変換効率が低い位置にあります。
グラフ右下にあるオレンジ色の四角い印がペロブスカイト太陽電池で、その変換効率は2018~2020年にかけて10%程度しかありません。
2020年頃からペロブスカイト太陽電池は変換効率を大きく伸ばしているため、今後の技術開発に期待が高まります。
耐久性が低い
ペロブスカイト太陽電池はほかの太陽光パネルと比較すると、耐久性が低く寿命が短い点がデメリットです。耐久性が低くなる理由は、ペロブスカイト太陽電池の性質にあります。
- 吸湿性があるため、水分が当たると劣化して発電効率が低下する
- 赤外線や紫外線に弱く、結晶構造が劣化して発電効率が低下する
耐久性を高めるために屋外での実証実験が実施されており、改良されたペロブスカイト太陽電池が実用化されると予想できます。
鉛を使用している
ペロブスカイトを合成する際、鉛が原料に含まれることもデメリットです。鉛は毒性や発がん性がある物質で、体内に入ると血液や肝臓、神経に障害発生の可能性があります。
一般的なシリコン系の太陽光パネルでも、太陽電池に鉛などの有害物質を使用していることが問題視されています。
ペロブスカイトもシリコン系も、鉛フリーな太陽電池の開発が進められているため、有害物質を含むデメリットはなくなる見込みです。
ペロブスカイト太陽電池の4つのメリット
マイナスの特徴に注目しがちですが、ペロブスカイト太陽電池には従来の太陽光パネルでは得られないメリットがあります。
- 設置できる条件の幅が広い
- 晴天でなくても発電可能
- 軽量で施工が容易
- 低コスト
どのような点がメリットになるのか、詳しく説明します。
設置できる条件の幅が広い
設置場所が限定されないことが、ペロブスカイト太陽電池のメリットです。
サイズが大きくて重い太陽光パネルは、耐荷重や施工性の兼ね合いから建物壁面への設置は不可になります。
ペロブスカイト太陽電池は薄さと軽さがあり、柔軟性も持っているため壁面への導入も可能です。
シリコン系の太陽光パネルは、1枚あたりのサイズが大きく重量もあるので、広い敷地や日照条件が良い土地など設置に適した条件があります。
薄くて軽いペロブスカイト太陽電池は場所を選ばず設置でき、再生可能エネルギーの普及拡大が期待できる製品です。
晴天でなくても発電可能
雨天の日射量や室内のLED照明の光でも、ペロブスカイト太陽電池なら発電できます。少ない光量でペロブスカイト太陽電池が発電できるのは、以下の理由からです。
- ペロブスカイトが光を効率良く吸収できる特徴を持っているため
- 吸収できる光の波長域が広くなるように化合物が合成されているため
天候に発電量が左右される点が、太陽光発電のデメリットと言われています。
ペロブスカイト太陽電池が実用化されれば、安定した発電量を確保できるため、二酸化炭素排出量削減に大きく貢献できるでしょう。
軽量で施工が容易
ペロブスカイト太陽電池は、1㎡あたり1〜4kg程度と非常に軽量です。
現在の主流になっている太陽光パネルは、畳1枚ほどの大きさで重量も1㎡あたり12~15kg程度あります。
重量がある太陽光パネルを支えるために耐久性がある基礎工事や架台設置が必須で、工期は少なくとも1週間から10日は必要です。
従来の太陽光パネルほどの重量がないペロブスカイト太陽電池は、設置する際に耐久性が高い基礎や架台は必要ないため、施工が容易になり工期の短縮も見込めます。
参照:次世代太陽電池 ペロブスカイト太陽電池について|一般社団法人沖縄CO2削減推進協議会
低コスト
ペロブスカイト太陽電池が実用化されたときには低価格が見込まれます。コストが低くなると言われる理由は、以下の3つです。
- 理由①:原材料が日本国内で賄える
- 理由②:製造工程が少ない
- 理由③:原材料にレアメタルを含まない
1つずつ、詳しく説明します。
理由①:原材料が日本国内で賄える
ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ素は、輸入に頼らず日本国内で採掘できます。日本は世界2位の生産量があり、世界シェアは30%です。
輸入しないので輸送費が安く、価格が景気の影響を受けません。原材料の価格が安定するため、ペロブスカイト太陽電池が製品化した際に低価格が見込めます。
参考:「次世代型太陽電池の開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(案)の概要|経済産業省 資源エネルギー庁
理由②:製造工程が少ない
ペロブスカイト太陽電池のコストが低くなる理由には、比較すると製造工程が少ないこともあげられます。
ペロブスカイト太陽電池の製造工程イメージ
おおまかなペロブスカイト太陽電池の製造工程は、以下のとおりです。
製造工程が少ないということは、工場での電気代や人件費が少ないため、ペロブスカイト太陽電池の低コスト化に繋がります。
理由③:原材料にレアメタルを含まない
ペロブスカイト太陽電池は原料にレアメタルを含んでいないため、低価格が実現します。
従来の太陽光パネルには、ガリウムやセレンなどのレアメタルが使用されています。
原材料にレアメタルを使用しないペロブスカイト太陽電池は原価が低く、従来の太陽光パネルより販売価格が低くなることが見込まれます。
ペロブスカイト太陽電池の発明者は日本の大学教授
ヨウ素を主原料としてペロブスカイト構造を持つ化合物を発明したのは、日本の大学教授です。
以下では、ペロブスカイト太陽電池の発明者や特許取得状況について詳しく見ていきます。
ペロブスカイト太陽電池の発明者
ペロブスカイト太陽電池を発明したのは、桐蔭横浜大学の特任教授で工学博士の宮坂力(みやさかつとむ)氏です。
宮坂氏はペロブスカイト太陽電池の研究を開始する以前は、色素増感太陽電池の研究に取り組んでいました。
2006年からペロブスカイト太陽電池の研究を始められて、2009年にペロブスカイト構造を持つ化合物の合成に成功しています。
2023年には、ペロブスカイト太陽電池の発明でノーベル賞候補とも言われていたほどの技術を開発した方です。
ペロブスカイト太陽電池の特許取得状況
以下のグラフは、特許庁による2009~2017年のペロブスカイト太陽電池に関する特許出願状況の調査で、特許出願件数の推移を国別に表しています。
2014年から急に申請件数が増加し、日本以外の各国から出願されています。中でも中国による申請が多い状況です。
ペロブスカイト太陽電池に関して日本では、安定性と耐久性に関する特許が最も多く出願されています。
このため、日本メーカーが開発するペロブスカイト太陽電池は、寿命が短いデメリットが解消されることが期待できます。
ペロブスカイト太陽電池の実用化はいつになるのか
早ければ、2025年にペロブスカイト太陽電池の実用化が実現する見通しです。
自社ビルにペロブスカイト太陽電池を導入して実証実験を進めている積水化学工業が、2025年に発電効率を高めた製品の実用化を見据えています。
また、岸田首相がペロブスカイト太陽電池を2025年に実用化する考えを表明しているほか、経済産業省でも社会実装に向けて支援していくと公表しています。
政府の支援があれば企業による研究開発が進めやすくなり、2025年にペロブスカイト太陽電池を実用化できる可能性が高まるでしょう。
まとめ|ペロブスカイト太陽電池はデメリットをクリアできれば脱炭素化が大きく進む
ペロブスカイト太陽電池のデメリットは、3つあります。
- 変換効率が低い
- 耐久性が低い
- 鉛を使用している
これらペロブスカイト太陽電池のデメリットは、研究開発によってクリアになる見込みです。
デメリットを払拭したペロブスカイト太陽電池が製品化されれば、さらに太陽光発電が普及し、脱炭素化が大きく進むことが期待できます。