農地法をわかりやすく解説! 3条・4条・5条の違いや2023年の改正内容について

「農地売却に関わる農地法って何?」
「農地法の第何条が農地売買・転用に関わるの?」
「最新の改定では何が変わったの?」
農地売買に関して、上記のようなことに悩んでいませんか?中には、農地や田んぼを売却したいけれど、法律のことがよく分からないと悩む方もいるはずです。
この記事では、以下についてわかりやすく解説します。
法律を理解したうえで、安全かつスムーズに農地売買する参考にしてみてください。
管理できていない・放置している田んぼを売りたいとお考えなら、「農地売却の方法(田んぼを売るには?)」をご覧ください。農地の売却方法や税金、費用について解説しています。
農地法とは?
農地法とは、農地および採草放牧地の取扱いについて定めた法律のことです。
主として耕作・養畜事業のために用いられる農地以外の土地のことです。耕作を目的として利用する農地と違い、家畜の放牧としても利用します。
まずは、農地売却に関わる農地法の概要を解説します。
農地法の目的
農地法の目的は、農地法第1条に次のようにまとめられています。
耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。
抜粋:農林水産省「農地法第1条 農地法の目的」
つまり、日本国内の農作物の生産を維持・拡大すること、そして農作物を国民へ安定供給することを目的として制定された法律です。自由に農地を転用できないように規制することで、生産性の低下を防止するために運用されています。
農地法で規制される土地

農地法で規制・制限される土地と細別を、以下に整理しました。
農地法で規制・制限される土地 | 細別 |
---|---|
農地 | 畑 |
水田(田んぼ) | |
果樹園 | |
苗圃 | |
わさび田 | |
はす田 | |
販売用の植木の苗木を栽培する土地 | |
販売用の芝を栽培する土地 | |
採草放牧地 | 農地以外で主として耕作・養畜として利用されている土地 |
ちなみに採草放牧地は、耕作や養畜として利用されていても、土地の主要目的が採草放牧でなければ採草放牧地として認められません。
また、林木育成を実施している土地において、採草放牧地だと判断が困難な場合には、樹冠の粗密度が土地面積全体の3割以下の土地を採草放牧地として判断します。
農地法改正の歴史
農地法は、1952年(昭和27年)に制定され、これまでに幾度となく改正が実施されてきました。参考として、全国農業会議所が公開する組織の歩みをもとに、農地法改正の歴史を整理します。
年度 | 農地法改正情報 | 概要 |
---|---|---|
1952年(昭和27年) | 農地法制定 | 自作農主義を制度化した |
1962年(昭和37年) | 農地法改正(1回目) | 農業生産法人を認めた |
2001年(平成13年) | 農地法改正(2回目) | 農業生産法人の要件を緩和した |
2009年(平成21年) | 農地法等改正法の制定・施行(3回目) | 個人の農業参入ハードルを緩和した企業として農地を借りられるようにした出資として農業参入できるようにした |
2016年(平成28年) | 農地法改正(4回目) | 農業生産法人という言葉を農地所有適格法人へ変更し、参入ハードルを緩和した |
2023年(令和5年) | 農地法改正(5回目) | 農地取得許可を得やすくなった一般人が兼業農家を目指せるようになった |
時代の変化とともに少しずつ農業への参入ハードルが低くなりました。そして最新の農地法改正では、個人事業主やサラリーマンの農業参入(農地購入・売却)ハードルが今まで以上に低く設定されています。
農地法施行規則における第3条・4条・5条の違いをわかりやすく解説

農地法に基づいて農地売買したい方向けに、関わりのある第3条・4条・5条の概要とそれぞれの違いを解説します。また、各条における手続きの流れをまとめました。
農地法第3条|権利・所有権移転
農地法第3条には、土地の権利・所有権の移転に関する規定がまとめられています。
条例を要約すると、農地や採草放牧地の所有権を含む以下の権利を設定して移転する場合に農業委員会の許可が必要という内容です。
移転に関連する権利 | 権利の概要 |
---|---|
所有権 | 土地を購入したときに、購入者がその土地を所有する権利 |
地上権 | 工作物又は竹木を所有しており、他人の土地(地下・空間も含む)を使用収益することを目的とした権利 |
永小作権 | 小作料を支払うことで、他人の土地で耕作・牧畜できる権利 |
質権 | 土地を提供する代わりに、債権者が債務者(物上保証人)から物を担保として受けとり占有する権利 |
使用貸借による権利 | 土地の賃料を支払わないで使用収益できる権利 |
賃借権 | 賃貸借契約に基づき土地を賃借する権利 |
収益を目的とする権利 | 一定の目的のために土地を使用・収益するための権利 |
農地を転用せず売買したい場合や、賃貸する場合には第3条が適用されるのが特徴です。農業委員会の許可を得ずに売買契約を交わすと、契約が無効化され、罰則の対象になる恐れがあります。
手続きの流れ
第3条に基づく農地売買・賃貸を実施する場合には、次の流れで手続きしなければなりません。
- 許可申請書を作成して農業委員会に届出する
- 申請書記載内容の審査を受ける
- 現地確認調査を受ける
- 農業委員会総会で審議・協議が実施される
- 許可・不許可書が交付される
上記の手続きは、およそ1ヶ月間で完了します。ちなみに、相続や時効取得、法人の合併・分割については、農地法第3条の許可が不要です。
農地法第4条|農地転用
農地法第4条には、農地転用に関する規定がまとめられています。
条例を要約すると、農地転用を実施したい場合には、農業委員会への申請・都道府県知事もしくは指定市町村長の許可が必要だという内容です。
基本的には都道府県知事に許可・不許可を下しますが、農林水産大臣の指定を受けている市町村長がいる区域においては、指定市町村長が対応します。
また以下に示す条件に該当する農地・採草放牧地においては、農業委員会への申請・許可不要です。
届出のみで良い場合
- 土地が市街化区域内にある場合
申請不要な場合
- 2a(アール)未満の自己所有の農地を農業用施設(温室・サイロ・農業倉庫)として使っている場合
- 国や都道府県などが道路や農業用排水施設といった施設として利用している場合
- 学校、医療施設等庁舎などを造る際に、国または都道府県等と都道府県知事等との協議が成立した場合
手続きの流れ
第4条に基づき農地転用を実施する際には、次の流れで手続きが必要です。
- 許可申請書を作成して農業委員会に届出する
- 都道府県農業委員会のネットワーク機能に意見聴取する
- 都道府県知事・指定市町村長が許可を検討する
- 許可・不許可書が交付される
上記の手続きは、およそ40日で完了します。もちろん許可を受けずに転用すると、原状回復の命令、罰則を受ける恐れがあるので注意してください。
農地法第5条|権利を移動後に農地転用
農地法第5条には、権利を移転した後で農地転用する場合の規定がまとめられています。
条例を要約すると、土地に関連する権利を移転した後で農地転用する場合には、農業委員会への申請・都道府県知事もしくは指定市町村長の許可が必要だという内容です。
おおよその内容は第4条と同じですが、次の要素が異なります。
- 権利を移転した後の土地に適用される
- 農地だけでなく採草放牧地も対象である
また以下の条件にあてはまれば、農業委員会に届け出が不要です。
- 国や都道府県などが道路や農業用排水施設といった施設として利用している場合
- 学校、医療施設等庁舎などを造る際に、国または都道府県等と都道府県知事等との協議が成立した場合
手続きの流れ
第5条に基づき、権利を移動させた後で農地転用を実施する際には、次の流れで手続きが必要です。
- 許可申請書を作成して農業委員会に届出する
- 都道府県農業委員会のネットワーク機能に意見聴取する
- 都道府県知事・指定市町村長が許可を検討する
- 許可・不許可書が交付される
上記の手続きは、およそ40日で完了します。許可を受けずに転用すると、原状回復の命令、罰則を受ける恐れがあります。
農地法第3条における2023年(令和5年)改正ポイント
2023年4月、新たに農地法第3条が改正されました。改正されたのは、農地法の売買に関わる項目です。主な改正ポイントを詳しく解説します。
農地法第3条第2項|農地取得許可に関する改正
2023年の農地法改正では、第3条第2項に規定されていた以下の取得不許可の条件が廃止されました。
- 農地および採草放牧地のすべてを効率的に利用できないと場合
- 一般法人である場合
- 信託の引受けによって所有権を取得する場合
- 農作業に常時従事(150日以上)できない場合
- 農地面積が、農地や採草放牧地の取得後、北海道の場合では2ha(ヘクタール)、そのほかの都府県では50a(アール)に達しない場合(一般的に5反)
- 耕作・養畜事業者が土地の貸し付け・質入れする場合
参考:農林水産省「農地法関係事務に係る処理基準について」
上記の条件があると、ほとんどの一般法人(企業)はもちろん、サラリーマンや個人事業主が農地を取得できませんでした。一方、取得条件が緩和化したことにより、下限面積要件等が廃止され、国民誰もが小規模農業をスタートしやすくなりました。
農地法に基づく売買に関する制度・手続き
農地の売買を検討しているけれど、どういった制度に対して手続きすべきか分からない人もいるはずです。参考として、2つの条件に分けて農地法に基づく制度・手続きの概要を整理しました。
- 農地を農地のまま売買する手続き
- 農地を転用して売買する手続き
農地を農地のまま売買する手続き
農地や採草放牧地を耕作目的のまま売買する場合には、農地法第3条第1項に規定されている「農業委員会の許可」が必要です。申請の手続きを以下に整理しました。
- 申請書を作成する
- 申請地である市町村の農業委員会に申請書を提出する
- 農業委員会から許可書が交付される
ちなみに申請書を作成する際には、譲渡人(賃貸人・使用貸人など)と譲受人(賃借人・使用借人)が連署しなければなりません。
農地を転用して売買する手続き
農地を別の用途に転用して売買する場合には、不動産会社と契約し、農業員会から転用申請許可を取得しなければなりません。具体的な流れを以下に整理しました。
- 不動産会社に売却(購入)依頼をする
- 売買契約を締結
- 農業委員会に転用許可申請を提出する
- 許可前に必ず所有者移転登記の仮登記を行う
- 転用申請許可後に所有者移転登記(本登記)・代金精算する
ちなみに、転用が認められるのは第2種農地(市街地化が見込まれる農地)と第3種農地だけです。すべての農地が対象ではないため注意してください。
農地転用に興味をお持ちなら、以下の記事を参考にしてみてください。農地転用の基礎知識や費用情報を整理しています。
関連記事 農地転用とは
農地法に関するよくある質問
農地法のことを深く理解したい人向けに、よくある質問を整理しました。
- 農地法に違反するとどうなる?
-
農地法を無視・違反して農地売買・転用を実施すると、最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される恐れがあります。また、次の場合にもペナルティを受ける恐れがあるため注意してください。
農地法違反に当たる行為- 調査員の調査・測量を拒んだ
- 市町村の命令に違反した
- 虚偽の報告・届出を提出した
また、違反したことが分かった場合には、取引の無効化・原状回復・工事停止といった命令を受ける恐れがあります。
- 農地は宅地に転用できるの?
-
農地の中でも、以下の条件にあてはまる土地であれば、宅地への転用が可能です。
宅地への転用が可能な農地の種類- 第2種農地のうち市街地化が見込まれる農地
- 第3種農地
出典:農林水産省「農地転用許可制度の概要」 ただし、第1種農地、市街地化が見込まれない第2種農地は、許可が下りないため注意してください。
ちなみに、日当たりの良い農地なら太陽光用地として最適です。土地を有効活用して電力から利益を生み出したい方はアスグリが提供する「農地買取センター」まで相談してください。
無料で相談可能です
- 農地転用は自分でもできるの?
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農地転用の手続きは、土地を所有する本人が実施しなければなりません。自身で書類を作成できない場合には、書類作成を行政書士に依頼することも可能です。
また、アスグリが提供する農地買取センターでも、農地転用の手続きをサポートできます。手数料、登記費用、農転手続き費用をすべて無料でサポートいたします。
- 農地は2023年から誰でも買えるようになるの?
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2023年4月の改正に伴い、農地取得の下限面積の問題が解消し、農地を取得しやすくなりました。企業における農業参入はもちろん、サラリーマンや個人事業主が兼業農家として活動しやすくなっています。
- 農地転用と地目変更の違いは何ですか?
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農地転用と地目変更は、土地の取扱いに関する考え方が違います。農地転用は、ほかの目的で転用したとしても地目は「農地」のままです。一方、地目変更は地目自体が変更するため、宅地に変更したら地目自体が「宅地」に代わります。
地目変更を目的としているのなら、地目変更登記簿が必要です。
農地法をわかりやすく解説 まとめ
農地・採草放牧地に関する取扱いがまとめられた農地法は、国内の農業の維持・拡大に関わる重要な法律です。農地の売買に伴う権利の移転・農地転用を実施する際に欠かせない法律であり、売買や賃借の際には手続きを実施する必要があります。
もし農地売却・転用を検討しているなら、農地法を理解したうえで手続きをスタートするのがおすすめです。本記事で紹介した各条項をチェックし、必要な手続きの準備を始めてください。
今所有している農地を管理できない、すぐにでも売却したいと考えているのなら、農地売却について解説した以下の記事を参考にしてください。
関連記事 田んぼを売るには? 農地売却の方法
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