火力発電のメリット・デメリットをわかりやすく解説! 石油から電気を生み出す仕組みとは?
「火力発電を続けるメリット・デメリットって何?」
「何で石油から電気が生まれるの?」
日本の電力をまかなっている火力発電の仕組みやメリット・デメリットに興味をお持ちではないでしょうか。
本記事では、以下についてわかりやすく解説します。
火力発電とは?
火力発電とは、火の力を利用して電気を生み出す発電方法です。
日本でも利用されており、東京電力を例に出すと毎日1,102万kWh程度の電力が生み出されています。
環境省の調査によると、1世帯が1年間に消費する電力は平均4,175kWhだと言われています。(1日に換算すると約11.4kWh)
つまり東京電力は1日で約96.7万世帯(1,102万÷11.4)分の電力を生み出しているイメージです。
また国立情報学研究所(NII)が公開しているエレクトリカル・ジャパンの情報によると、日本では277件もの火力発電所が稼働しており、13万MW(メガワット)もの電力が発電されているそうです。
日本で利用される火力発電の割合
日本では火力発電以外にも、太陽光発電や原子力発電といった様々な発電方法が利用されていますが、全体の7割を火力発電が占めています。
上図のうち、石炭・LNG・石油・その他火力が火力発電所の項目になります。日本は世界のなかでも火力発電に依存している傾向が強く、サウジアラビア・インドに次いで3番目に火力発電の利用割合が高いです。
火力発電の仕組みをわかりやすく紹介
火力発電の仕組みは、電気事業連合会の資料にてわかりやすく説明されています。
まず火力発電に利用するボイラー(コンロ)に火がつき、その熱で温められた水(やかん)が沸騰することで蒸気が発生します。すると蒸気の力で設置されているタービン(風車)が回転して電気が生まれるイメージです。
火の力が直接的に電気になると思われがちですが、火は水を温めて水蒸気にするのに用いられます。
また、蒸気の噴出量を変化すれば発電量を増加・削減できることから、季節によって火力の強さを変更しつつ、必要な電力量を調整しているのが火力発電の仕組みです。
火力発電に使用される燃料
火力発電所に設置されたボイラーは、次のような燃料を投入することによって火を発生させています。
- 石炭
- 石油
- 天然ガス
火力発電に使用される燃料は燃焼効率が高いものばかりであり、少ない燃料で長時間燃え続ける性質をもっています。
しかし、資源の少ない日本では採掘することが難しいため、サウジアラビアやオーストラリアなど、資源豊かな国から輸入して燃料を確保している状況です。
火力発電の種類
火力発電は以下の発電方式が用いられています。
汽力発電
汽力発電は、蒸気が膨張する力(圧力)を利用して発電する方式を採用しています。石炭や天然ガスなどを利用して火を起こし、蒸気が噴出する力を利用してタービンを回すのが汽力発電の仕組みです。
- 常陸那珂火力発電所|茨城県
- 四日市火力発電所|三重県
- 知多火力発電所|愛知県
汽力発電は火力発電所だけでなく、熱を起こす仕組みを原子力に変えた「原子力発電所」でも利用されています。
原子力発電の仕組みに興味をお持ちなら、以下の記事をチェックしてみてください。原子力発電のメリット・デメリットも含めてわかりやすく解説しています。
関連記事 原子力発電のメリット・デメリット
ガスタービン発電
ガスタービン発電は、火を燃やした際に発生する燃焼ガスの力を利用して発電する方式を採用しています。ガスタービン内でつくられた高圧の燃焼ガスを噴出することにより、高速でタービンを回転させるのが主な仕組みです。
- 音別発電所|北海道
- 新居浜北火力発電所|愛知県
小型の設備で高出力の発電ができるほか、汽力発電の水蒸気よりも大量の圧力を生み出せると言われています。自動車や飛行機にも利用されている仕組みであり、発電所を稼働してすぐに発電を始められるのがガスタービン発電方法、そして当発電方法を採用する魅力です。
コンバインドサイクル発電
コンバインドサイクル発電は、汽力発電・ガスタービン発電を組み合わせた発電方法が採用されています。ボイラーで発生させたガスでガスタービンを回転させつつ、ガスタービンから出る廃ガスの熱を沸騰させ汽力発電用のタービンを回すのが主な仕組みです。
- 品川火力発電所|東京都
- 鹿島火力発電所|茨城県
- 横浜火力発電所|神奈川県
ガスタービンから排出される排ガスをムダにすることなく追加で発電できます。また発電効率だけでなく、CO2排出量を減らせるという点も注目されており、国内の各火力発電所で導入が進んでいるそうです。
火力発電のメリット
火力発電を建設・稼働するメリットは次のとおりです。
なぜ日本で火力発電の発電割合が大きいのか、具体的なメリットを紹介します。
低コストで建設・運用しやすい
火力発電所は、低コストで建設・運用しやすいのがメリットです。
参考として、資源エネルギー庁が公開している「各電源の諸元一覧」の建設費・運用費を以下にまとめました。
火力発電 | 原子力発電 | 風力発電(陸上) | 地熱発電 | 水力発電 | |
---|---|---|---|---|---|
出力規模 | 石炭:80万kW LNG:140万kW 石油:40万kW | 120万kW | 2万kW | 3万kW | 1.2万kW |
稼働年 | 最大40年 | 最大60年 | 最大25年 | 最大50年 | 最大60年 |
建設費 | 石炭:25万円/kW LNG:12万円/kW 石油:20万円/kW | 37万円/kW | 28.4万円/kW | 79万円/kW | 64万円/kW |
人件費 | 石炭:3.6億/年 LNG:6.0億/年 石油:1.9億/年 | 20.5億/年 | 0.600 万円/kW/年 | 3.3 万円/kW/年 | 0.2億/年 |
廃止措置費用 | 建設費の5% | 716億円 | 建設費の5% | 建設費の5% | 建設費の5% |
上記5種の発電所のなかでもっとも建設費が安いことはもちろん、出力規模に対する人件費も安く抑えられます。建設する土地スペースも小さく抑えられることから、短期間で施設を建設できることもメリットのひとつです。
安定的に発電できる
火力発電は施設内でボイラーやタービンを稼働するため、季節や気候の影響を受けず安定的に発電できるのがメリットです。
たとえば水力発電の場合、安定的に雨が降らなければ放水時の電力量を確保できません。また風力発電も、風が吹きにくい時間や季節は電力の確保が難しいです。
火力発電で利用する石炭や天然ガス、石油は豊富に資源があることから、今後も長期的に発電効率を落とさないまま安定的に発電できます。
エネルギー変換効率に優れる
火力発電は、水力発電の次にエネルギー変換効率が高いのがメリットです。
特定のエネルギーを別のエネルギーに変換する効率のことです。火力発電の場合は、燃料を電力に変える効率のことを指します。
変換効率は2番目にはなりますが、火力発電は水力発電の数十倍の規模で電力の出力が可能です。また水力発電は設置場所が限定されることから、日本で必要とされる膨大な電力をまかなうためには、火力発電のほうが向いていると言えます。
需要に応じて出力を調整できる
火力発電は、ボイラーの熱の上げ下げをすることで、発電量を自由に調整できるのがメリットです。
たとえば、電力消費量が大きい夏場・冬場だけ発電量を増やす、春・秋は発電量を減らすというように、状況に合わせて必要な電力だけを生み出せます。
発電した電力を余らせてしまうと自然放電して燃料がムダになってしまうため、季節や状況に合わせて出力を調整できるのが火力発電の魅力です。
火力発電のデメリットと解決策
低コストで高い発電効率を発揮する火力発電ですが、次のようなデメリットがあることに注意しなければなりません。
デメリットだけでなく課題の解決策も解説します。
CO2排出の問題は新技術で解決する
火力発電は、燃料を燃焼する際に膨大なCO2を排出します。環境省が公開している「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について」の資料によると、従来型の石炭の場合1kWhの電力を生み出すために、0.867kg-CO2ものCO2を排出するそうです。
環境エネルギー事業協会によると、燃費15.0km/リットルの自動車が1km走行した場合のCO2排出量は0.155kg-CO2です。
つまり、火力発電の石炭から生み出される0.867kg-CO2は、自動車が5kmほど走行したときに排出されるCO2の量と同じ程度だと言えます。
また1世帯が1日に消費する電力は約11.4kWhであるため、自動車が毎日65km走行している状況と同じイメージです。日本には5,000万世帯ほどが暮らしていると言われているため、電力を生み出すために膨大なCO2が排出されていることがうかがえます。
対して近年では、CO2を出さない火力発電が開発されました。新たな火力発電は、愛知県にある碧南火力発電所(JERA公式サイト)に導入されており、従来燃料である石炭や天然ガスの代わりにアンモニアと水素を燃料として使用します。
燃焼させても水(H2O)や窒素(N2)しか発生しないため、環境に優しくクリーンな発電方法として、今後ほかの発電所でも導入していく予定だそうです。
化石燃料の問題は燃焼方法の改良で解決する
火力発電に利用されている燃料は、地球上に豊富な資源が蓄えられています。しかし、化石燃料は有限であるため、以下の期間で資源が枯渇するのではないかと危惧されている状況です。
- 石油:約50年
- 石炭:約130年
- 液化天然ガス:約45年
出典:環境展望台「枯渇する資源」
有限である化石燃料の使用を減らすためには、発電効率を高める技術開発が欠かせません。少ない燃料で膨大な電力を生み出せる仕組みの開発が求められています。
世界における火力発電の発電効率が世界最高水準48%だと言われているなか、日本では水準を上回る次のような火力発電の技術が登場しています。
- 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)
- 石炭ガス化複合発電(IGCC)
- ガスタービン燃料電池複合発(GTFC)
出典:資源エネルギー庁「火力発電の高効率化」
最大63%の発電効率を生み出せることから、少ない燃料で膨大な電力を生み出せるようになりました。
海外輸入の依存問題は輸入先の分散化で解決する
日本は火力発電で利用する石炭・天然ガス・石油といった資源が少なく、ほとんどを海外輸入に依存しています。しかし、世界情勢の影響で価格が高騰することも多いため、電気料金の高騰などの影響が国民の負担につながっている状況です。
海外輸入への依存度が高い問題を解決するためには、燃料調達先の分散化が欠かせません。貿易交渉を進めつつ、新たな輸入先を見つけてリスクの分散を図ることが重要です。
現在、日本全国の火力発電所が、燃料輸入の依存問題を解決するために調達先の分散化をスタートしています。
たとえば関西電力では次のように、安定的に燃料を調達できるアメリカやオーストラリア、そして東南アジアの国々を中心とした供給網を再構築している状況です。
火力発電以外の発電方法がもつメリット・デメリット
本記事では火力発電のメリット・デメリットに焦点を当てて解説しましたが、ほかの発電方法にもさまざまなメリット・デメリットがあります。
参考として、各発電方法がもつメリット・デメリットを下表に整理しました。
発電方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
原子力発電 | ・高効率で発電できる ・CO2を排出しないため環境に優しい | ・災害・故障といったトラブル発生時のリスクが大きい(東日本大震災) ・放射性廃棄物として処理しなければならない |
水力発電 | ・自然の力を利用して発電できる ・維持管理コストを抑えやすい | ・下流側の水域に影響を出しやすい ・気候によって発電効率が変化する |
風力発電 | 同上 | ・設置場所が限定される ・気候によって発電効率が変化する |
太陽光発電 | ・自然の力を利用して発電できる ・CO2を排出しない | ・景観を阻害しやすい ・天候によって発電効率が左右される |
関連記事 太陽光発電とSDGsの関係
火力発電についてよくある質問
- 火力発電が環境に悪いと言われる理由は何?
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火力発電が環境に悪いと言われているのは、他の発電方法と比べて膨大なCO2を排出するためです。
日本を含めた先進国では、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指し、CO2排出量を減らす取り組みをスタートしました。
火力発電が取り組みの実現を阻害することから、近年では再生可能エネルギーを使った発電方法へと移行する考えが生まれてきています。
カーボンニュートラルの取り組みについて詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。取り組みのメリット・デメリットをわかりやすく解説しています。
関連記事 カーボンニュートラルとは
- 火力発電に使う石油のメリット・デメリットは何?
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火力発電に石油を使うメリット・デメリットを整理しました。
石油のメリット- ほかの化石燃料よりも資源が豊富である
- 液体であるため運搬しやすい
石油のデメリット- 資源が有限である
- 国際情勢の影響により燃料費が大きく左右される
- 温室効果ガスを発生させて大気汚染が加速する
- 火力発電の将来予想は?
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近年では、カーボンニュートラルの実現に向けて、徐々に自然エネルギーを活用した「太陽光発電」が注目され、再生可能エネルギーのニーズが高まってきています。
また経済産業省が公開している「今後の火力政策について」によると、火力発電の比率を現状の7割から4割まで削減することが目指されている状況です。
今後、カーボンニュートラルに向けた取り組みが進んでいくことで、次第に火力発電のニーズが減り、発電所の停止・廃止が進んでいくと予想されます。
火力発電のメリット・デメリットについてまとめ
火力発電は、日本の電力をまかなう重要な役割があることはもちろん、高効率で電力を生み出せるの発電方法です。しかし、膨大なCO2(二酸化炭素)を排出することや、海外からの輸入・供給に依存しているというデメリットから目を背けることができません。
環境への意識が高まる現代において、火力発電はデメリットが目立つ発電方法です。経済産業省でも火力発電所の割合を減らす目標が掲げられているため、これからの時代は、環境に優しい再生可能エネルギーに移行していく可能性が高いと言えます。