太陽光パネルには有害物質が含まれる? 安全対策についても解説
太陽光パネルには、原材料である太陽電池セルやガラスなどに有害物質を含む部材が使用されていることがあります。
正しく安全対策されている太陽光パネルは有害物質が流出しない製品仕様になっていますが、人体や環境への影響を懸念する声も少なくありません。
本記事では、太陽光パネルが環境被害を出さないための対策方法についても紹介します。
太陽光パネルは適切に安全対策されている
太陽光パネルは、日本産業規格がJISC8992で定める試験に関する要求事項をクリアしたものが、製品化されています。
具体的な試験の項目は、以下の5種類です。
- 一般検査
- 感電危険試験
- 火災危険試験
- 機械的応力試験
- 部品試験
中でも機械的応力試験は、太陽光パネルが衝撃を受けた際に被害を少なくするために機能や耐久性をチェックしています。
市場に出回っているのは、これらの試験をクリアして安全性が信頼できる太陽光パネルです。
厳しい基準で安全対策されているため、適切に使用していれば太陽光パネルの有害物質による危険性は低いと言えます。
太陽光パネル有害物質の種類と影響
太陽光パネルを構成する部材には、環境に被害を及ぼす可能性のある有害物質が含まれていることがあります。
以下では太陽光パネルに含まれている有害物質と、どのような影響が懸念されるのかの2つを見ていきましょう。
主な有害物質
「太陽光パネルが猛毒」と言われることがありますが、その原因である主な有害物質は4つあります。以下は太陽電池の種類別に、含有の可能性がある有害物質を一覧にしたものです。
太陽光パネルの種類 | 含有の可能性がある有害物質 |
---|---|
シリコン系 | 鉛 ヒ素 |
化合物系(CdTe系) | 鉛 ヒ素 カドミウム |
化合物系(CIS/CIGS系) | 鉛 ヒ素 カドミウム セレン |
有害物質は、太陽光パネルの以下の箇所に含まれます。
以下の図は、太陽光パネルの構造と各部材の比率を表したものです。
各物質が含有されているパーツの重量を比較すると、鉛やカドミウム、セレンの割合は少なく、カバーガラスに含まれているヒ素の割合が大きいと分かります。
懸念されている環境への影響
太陽光パネルの有害物質による環境への影響には、以下のようなことが考えられます。
有害物質 | 環境への影響 |
---|---|
鉛 | ・水中、土壌、水底の泥など自然に存在している ・環境省の調査において鉛は検出しているが、水生生物への影響の有無を判断するための濃度は測定されていない |
ヒ素 | ・水中や鉱物の中に存在している ・地下水にヒ素が混入することで慢性的にヒ素を摂取する被害が日本以外にも世界で発生している |
カドミウム | ・大気からの降下や工場の排水などから水中に侵入し水質汚染の原因となる ・汚染された水中の生物を摂取することで、体内に取り込むと健康被害の恐れがある |
セレン | ・自然界に広く分布していて、水質汚染や土壌汚染の可能性あり ・含有量の多い土壌で育った農作物を摂取すると中毒の懸念はあるが、必須栄養素でもある |
いずれも、環境に直接被害があるわけでなく土壌や水中に含むことにより、食物を経由して人体に侵入することが懸念されています。
参照:参考資料2 有害金属対策に係わる国際対応並びに国内戦略策定のための予備的検討結果 報告書|環境省
参照:カドミウムに関する物質情報| 環境省
これらが環境に影響を与えないよう、取られている安全対策の方法について次に解説します。
太陽光パネルの有害物質による影響をなくす安全対策方法
太陽光パネルから有害物質が流出して周囲への影響が出ないようにする対策方法は、以下の3つです。
- 破損した太陽光パネルを放置しない
- リユースまたはリサイクルする
- 寿命を迎えたら適切な方法で処分する
どのように対策するのか、詳しく説明します。
破損した太陽光パネルを放置しない
太陽光パネルが破損したら、そのままの状態にしないようにすることが大切になります。
破損した箇所から内部に侵入した水分に有害物質が混ざり、外部に漏れる可能性がゼロではないためです。このため、できる限り速やかに破損した太陽光パネルを交換または撤去する対策が、環境保護のために重要と言えます。
20年以上屋外に設置しても耐えられるよう太陽光パネルは設計されていますが、万が一破損した場合は迅速な処理が必要です。
リユースまたはリサイクルする
まだ使用できる太陽光パネルは、リユースまたはリサイクルしましょう。リユースとリサイクルの方法は、以下のとおりです。
種類 | 方法 |
---|---|
リユース | 中古品を販売する業者による買い取り後、再販 |
リサイクル | ・リサイクル業者への引き渡し ・太陽光パネルをパーツ毎に解体 ・リサイクルできる姿まで分解後、販売または最終処分 |
太陽光パネルの廃棄量が増えると、埋め立てによる最終処分ができなくなると懸念されています。
使用できる状態の太陽光パネルは、リユースまたはリサイクルが環境にやさしい処分方法です。
寿命を迎えたら適切な方法で処分する
寿命で発電できなくなった太陽光パネルは、「産業廃棄物」に該当します。粗大ごみのように簡単には処分できないため、正しく処分できる業者に引き取り依頼が必要です。
不法な投棄や埋め立てが問題視されており、太陽光パネルを適切に処分できる業者を選ばないと、環境に悪影響を及ぼしかねません。
産業廃棄物の処分には費用がかかりますが、あらかじめ積み立てておくなど資金を用意しておきましょう。
太陽光パネルの寿命について、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
関連記事 太陽光パネルの寿命
太陽光パネル廃棄問題とリサイクルの現状
太陽光パネルは廃棄問題が懸念されています。しかし、現時点で発電事業者にリサイクルの義務はなく、廃棄物処理法に則って適正処理する決まりがあるのみです。
リユースやリサイクルが推奨されていますが、対応できる業者が少なく回収が拒否される事例も発生しています。
このため、循環型社会形成推進基本法に基づいた、以下の優先順位に沿ったフローの構築が必要な状況です。
埋め立て処分は最終手段とし、まずは処分が必要な太陽光パネルを発生させずに、可能な限り再利用できれば廃棄問題を解決できます。
また、リサイクルできないものを焼却処分する際に発生する熱を回収し再利用すれば、エネルギーコストを削減できるでしょう。
太陽光パネルの有害物質・廃棄問題における今後の課題
太陽光パネルの廃棄で解決が求められている課題は、以下の3つです。
- 課題①:含有物質の情報提供の不足
- 課題②:不適切な設備の管理・放置への対策
- 課題③:リサイクルコストの高さ
課題①:含有物質の情報提供の不足
太陽光パネルに含有している有害物質の情報が、公開されていないケースが多い点の解消が課題のひとつです。
有害物質に関する情報がないと、業者が適切に処分できず回収が進みません。
現在では、使用済太陽電池モジュールの適正処理に資する情報提供のガイドラインで、基準値を超えた製品への有害物質の表示方法が策定されています。
しかし、ガイドラインが策定される前の製品については、含有物質の情報提供がありません。
そこで、新規認定の申請書類に有害物質に関する情報を追加し、含有物質情報のデータベース化が進められています。含有している物質の情報不足については、今後解消していく見通しです。
参照:使用済太陽電池モジュールの適正処理に資する情報提供のガイドライン|一般社団法人太陽光発電協会
課題②:不適切な設備の管理・放置への対策
災害や事故で故障した機器が管理されず、放置されるケースがあることも太陽光パネル廃棄問題においての課題です。
強風や地震の影響で架台が転倒した場合など、被害が大きいと簡単に修繕できない状況になることも考えられます。
自然災害で被害を受ける可能性があることを踏まえて、保険加入やメンテナンス体制を整えていなければ、適切に設備を管理できません。
資金がないなどの理由で卒FIT後の太陽光発電が放置されないよう、廃棄等費用積立制度が開始されています。
FIT期間中に設備の修理や機器の交換が必要になった場合、費用は自己負担です。廃棄等費用積立制度に頼らず、個別に費用を用意しておくことで太陽光発電を適切に管理できるでしょう。
FIT制度については、以下の記事で詳細を解説していますので、参考にしてください。
関連記事 固定価格買取(FIT)制度とは
課題③:リサイクルコストの高さ
太陽光パネルをリサイクルする際のコストが高い点も、解決するべき課題と言えます。コストが割高な理由は、リサイクルまでに以下にあげる業者を経由するためです。
- 撤去事業者
- 収集・運搬事業者
- 中間処理業者
- 最終処分業者
高効率なリサイクルのフローを確立してコストを低減できれば、太陽光パネルのリサイクルを促進できます。
リサイクルの比率が増えると埋め立て処分が減少するため、太陽光パネル廃棄問題の課題を解決できるでしょう。
太陽光パネル廃棄費用とリサイクル費用の相場
太陽光パネルの廃棄やリサイクルが必要になるときのため、どれくらいの資金が必要か把握していれば、前もって準備できます。
以下では、太陽光パネルの廃棄費用とリサイクル費用の平均的な価格を紹介します。
太陽光パネルの処分費1枚あたりの相場
太陽光パネルと架台を解体して処分する際の費用の中央値は、0.59万円/kWです。処分の工程別の費用内訳は、以下のようになります。
- 解体・撤去:0.31万円/kW
- 収集運搬:0.07万円/kW
- 中間処理:0.14万円/kW
- 最終処分:0.07万円/kW
設備容量44.88kWで、公称最大出力510Wの太陽光パネルを88枚設置していると仮定した場合、パネル1枚あたりの処分費は以下のとおりです。
処分費用の中央値 × 設備容量 ÷ 枚数 = 太陽光パネル1枚あたりの処分費用
0.59万円/kW × 44.88kW ÷ 88枚 = 0.3009万円/kW/枚
紹介した金額は、中央値を基に仮定条件から太陽光パネル1枚あたりの処分費を算出しました。
なお、上記の条件で太陽光パネル88枚を処分する費用は、約26.5万円です。
発電設備の施工状況や設置している太陽光パネルの公称最大出力や枚数などで、実際にかかる金額は変動します。
詳しい処分費用を確認したい場合は、処分業者への見積もり依頼が必要です。
参照:太陽光発電設備の廃棄等費用積立制度について|経済産業省 資源エネルギー庁
太陽光パネルの廃棄費用と処分方法の詳細は、以下の記事で解説していますので参考にしてください。
関連記事 太陽光パネルの廃棄費用・処分方法
太陽光パネル1枚あたりのリサイクル費用相場
太陽光パネルのリサイクルにかかる費用の相場は、太陽電池モジュールの種類や強化ガラスの破損の有無によって変わります。
太陽電池モジュールの種類別のリサイクル費用は、以下表のとおりです。
太陽電池モジュールの種類 | シリコン系 | 化合物系 |
---|---|---|
リサイクル費用の相場 | 0.3万円/枚 ※ガラスが破損している場合は、0.3~0.36万円/枚 | 0.3~0.66万円/枚 |
中間処理後の生成物 | ・アルミフレーム ・セル ・EVA(封止材) ・バックシート ・板ガラス(強化ガラスに破損なしの場合のみ) ・ガラスくず ・割れガラス | ・アルミフレーム ・セル ・EVA(封止材) ・バックシート ・ガラスくず |
リサイクル出口 | ・アルミ ・銀 ・銅 ・ガラス | ・アルミ ・銀 ・銅 ・ガラス |
金属の価格は変動するためリサイクルが必要なタイミングでは、費用が大きく変動する可能性があります。
寿命を伸ばすのも課題を解決する方法
適切なメンテナンスを実施して、太陽光パネルが発電を継続できるよう維持することでも、課題の解決につながります。
以下のグラフのように、2030年代の後半から太陽光パネルの排出量の急増が予測されているものの、廃棄には課題が残っている状況です。
このため、太陽光パネルの寿命を延ばせれば、処分のタイミングに差ができて大量廃棄の懸念が解消されます。太陽光パネルの大量廃棄問題は、メンテナンスによる寿命延長も重要なポイントと言えるでしょう。
太陽光発電のメンテナンスについては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
関連記事 太陽光発電のメンテナンス費用(維持費)
太陽光パネルと有害物質まとめ
太陽光パネルには、以下4つの有害物質が含まれていることがあります。
- 鉛
- ヒ素
- カドミウム
- セレン
日本産業規格がJISC8992で定める試験の基準をクリアしたものが製品化されているため、簡単に有害物質が漏れだすとは考えられません。
しかし、万が一のために以下のような方法で、有害物質が流出しないよう対策できます。
- 破損した太陽光パネルを放置しない
- リユースまたはリサイクルする
- 寿命を迎えたら適切な方法で処分する
とくに、太陽光パネルは適切に処分することで環境への影響を出さないようにすることが大切です。