太陽光発電

有機薄膜太陽電池とは? 変換効率やメリット・デメリットを解説

有機薄膜太陽電池
阿部希

有機薄膜太陽電池は次世代太陽電池のひとつといわれており、今後日本で太陽光発電の普及を拡大させるために研究や開発が進められています。

日本では太陽光発電の設置に適した平地が少なくなっており、軽量でフレキシブルさが特徴の有機薄膜太陽電池の実用化が欠かせません。

有機薄膜太陽電池について詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。

有機薄膜太陽電池とは?

有機薄膜太陽電池は、薄いシート状の有機系の太陽電池を指します。英語で「Organic Photovoltaics」といい、「OPV」と略される太陽電池です。

有機薄膜とは、炭素などの有機物が主原料の半導体を利用した薄膜で、素材に柔軟さがあることが特徴です。

有機薄膜太陽電池の材料

シリコン系などの太陽パネルは無機半導体(シリコン)が材料であるのに対し、有機薄膜太陽電池の材料として使われているものは有機化合物です。太陽電池において半導体は、光を吸収し電気を作る役割を担っています。

有機薄膜太陽電池では、n型とp型の有機半導体が2層に別れるものと、混合させてひとつの層にしたものがあります。

さらに、2種類の電極で有機半導体を挟む形状をしています。酸化インジウムスズや銀が電極の材料です。

有機薄膜太陽電池の変換効率の変遷

有機薄膜太陽電池は、米国のイーストマン・コダック社が1980年代中頃に試作品報告して以降、以下グラフのように最大の変換効率が推移しています。

有機薄膜太陽電池の変換効率の変遷グラフ
NRELの「Best Research-Cell Efficiencies」を参照し、アスグリ編集部が作成

変換効率が記録されている2001年は3%に満たない数値でしたが、2023年には最大約19%(研究レベル)まで性能が向上していることが分かります。

しかし、約48%のⅢ-V 族の多接合セルなどと比べると、変換効率の低さが課題といえるでしょう。

有機太陽電池と無機太陽電池の違い

有機太陽電池と無機太陽電池の違いは、光を当てて電気を作るための半導体の材料に有機物と無機物のどちらを使用しているかです。

一般的に有機太陽電池は、有機物の柔軟性などの特徴を活かして薄いシート状の太陽電池として研究・開発が進められています。

一方で、無機太陽電池は半導体を補強するためガラスを使用したパネル形状が多く、現在の太陽光発電の主流です。

有機薄膜太陽電池とペロブスカイト太陽電池の特徴の違い

有機薄膜太陽電池とペロブスカイト太陽電池は、半導体に使用される材料に違いがあります。太陽電池の半導体は、それぞれ以下のとおりです。

半導体の材料
  • 有機薄膜太陽電池の半導体:有機化合物
  • ペロブスカイト太陽電池の半導体:有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物(主にヨウ化鉛メチルアンモニウムなど)

半導体の材料は異なりますが、いずれも薄膜構造を持ち、塗布技術を用いた低コストな製造が可能である点は共通しています。

ペロブスカイト太陽電池は英語で「Perovskite solar cell」と表記され、「PSC太陽電池」と略されます。

以下の記事でペロブスカイト太陽電池の詳細を解説していますので、こちらも参考にしてください。

関連記事 ペロブスカイト太陽電池とは

有機薄膜太陽電池のメリット3選

有機薄膜太陽電池には、以下3つのメリットがあります。

  • フレキシブルな形状のため設置場所の選択肢が多い
  • 軽量のため耐荷重が低い屋根に設置できる
  • 製造工程が少なく低コスト化が期待できる

フレキシブルな形状のため設置場所の選択肢が多い

有機薄膜太陽電池はシート状で薄くフレキシブルなため、現在の主流であるシリコン系太陽電池と比較して設置できる場所が多い点がメリットです。

従来の太陽電池は、平坦な地面や屋根に施工した架台に設置する方法が一般的でした。一方で、有機薄膜太陽電池はフレキシブルな構造を活かして、太陽電池自体をカーブさせて設置可能です。

設置場所の選択肢が増えるため、有機薄膜太陽電池の実用化によって太陽光発電の普及促進が期待できるでしょう。

軽量のため耐荷重が低い屋根に設置できる

有機薄膜太陽電池はパネルタイプの太陽電池よりも軽量なため、従来の太陽電池では導入できなかった場所にも設置できるメリットがあります。

従来の太陽電池は大きさも重量もあるため、日照条件などを考慮すると設置場所を限定されることがありました。

原材料にガラスなど重量のある素材を使用しない有機薄膜太陽電池は軽く、耐荷重が低い屋根にも設置可能です。

有機薄膜太陽電池が普及すれば、これまで耐荷重が原因で太陽光発電を導入できなかった建物にも太陽電池を設置できるようになります。

製造工程が少なく低コスト化が期待できる

有機薄膜太陽電池は、無機系の大型なパネル形状の太陽電池と比較すると製造工程が少ないため、低コスト化が期待されています。

従来のパネル形状の太陽電池は、基板とガラスで電極となる半導体を挟み、周囲をアルミフレームで囲うなどの製造工程が必要です。

一方、有機薄膜太陽電池は、印刷技術を活用した塗布プロセスによって製造が可能です。

また、製造工程が少ないことで人件費や設備投資の負担も軽減されるため、有機薄膜太陽電池の実用化が進めば、さらなる低コスト化が期待されます。

有機薄膜太陽電池の2つのデメリット

有機薄膜太陽電池には、以下のようなデメリットも存在します。

  • 耐久性を高めないと実用化は難しい
  • 無機系の太陽電池と比較すると変換効率が低い

耐久性を高めないと実用化は難しい

有機薄膜太陽電池は外部環境(光・酸素・水分・熱)によって劣化しやすく、寿命が短いという課題があります。とくに、太陽光(紫外線)に当たることで劣化しやすい点が有機薄膜太陽電池のデメリットです。

このため、長期的な実用化に向けて、有機薄膜太陽電池の耐久性を高めるための研究や実証実験が進められています。

参照:有機薄膜太陽電池の品質劣化の仕組みを解明|金沢大学

無機系の太陽電池と比較すると変換効率が低い

有機薄膜太陽電池の変換効率を高めるための研究や開発は世界中で進められていますが、2023年時点で最高でも約19%です。一方で、無機系の太陽電池は2022年に、以下の変換効率を記録しています。

無機系太陽電池の変換効率
  • シリコン系の単結晶セル:約31%
  • 化合物系のⅢ-V 族の多接合セル:約48%

20年ちょっとで有機薄膜太陽電池の変換効率は15%以上も上昇しましたが、ほかの太陽電池を比較すると効率が低い点が実用化の課題です。

有機薄膜太陽電池の実用化に向けた研究や実証実験

有機薄膜太陽電池を実用化するための研究や実証実験が、企業や大学によって実施されています。

  • 岡山大学異分野基礎科学研究所の研究
  • Osaka Metroと名古屋大学による実証実験

岡山大学異分野基礎科学研究所の研究

岡山大学異分野基礎科学研究所では、有機薄膜太陽電池の変換効率の向上と低コスト化を実現するための研究の成果を2024年に発表しています。

有機薄膜太陽電池の実用化を促進することを目的として、岡山大学は新たなn型半導体の開発の研究を実施しました。実際に、研究の過程で新たなn型半導体である「NM-2」の合成に成功しています。

しかし、代表的なp型半導体の「PM6」と組み合わせたところ、変換効率は1%以下という結果でした。

変換効率を高めるためには、開発したn型半導体「NM-2」が吸収できる光の波長域の拡大が必要と、研究の結果として結論付けています。

参照:有機薄膜太陽電池の普及拡大に向けた高効率と低コスト合成を両立するn型半導体の開発補助事業に関する研究報告書|岡山大学異分野基礎科学研究所

Osaka Metroと名古屋大学による実証実験

名古屋大学大学院工学研究科と未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所は、以下の企業と共同で有機薄膜太陽電池の世界初の実証実験を実施しています。

  • Osaka Metro
  • 株式会社デンソー
  • デザインソーラー株式会社

電極にカーボンナノチューブを採用した有機薄膜太陽電池を走行しなくなった車両に設置し、大阪府城東区森之宮のe METRO MOBILITY TOWNで2025年10月まで実証実験されます。

カーボンナノチューブとは、炭素で構成される筒状の材料を指します。

有機薄膜太陽電池の裏側の電極は「銀」を使用することが一般的ですが、カーボンナノチューブを使用した太陽電池は両面共に透明です。カーボンナノチューブは酸化しにくいため、有機薄膜太陽電池の耐久性を高めています

参照:世界初!カーボンナノチューブ電極を用いた有機薄膜太陽電池の実証実験を行います|Osaka Metro

参照:カーボンナノチューブ電極を用いた太陽電池 高耐久で透明、曲げられる薄膜電池を”電車の窓”で初の実証実験|名古屋大学

まとめ|有機薄膜太陽電池が実用化されれば太陽光発電の普及促進が期待できる

有機薄膜太陽電池は薄くて軽い特徴があり、今まで太陽光パネルを設置できなかった場所にも施工できます。しかし、耐久性や発電効率の向上が課題であり、大規模な発電用途では実用化が進んでいないのが現状です。

世界各地で有機薄膜太陽電池の性能を向上させるための研究が進められており、開発された2000年代前半より15%程度発電効率が高くなっています。

シリコン系や化合物系の太陽電池と比較すると、有機薄膜太陽電池の発電効率は依然として低く、耐久性向上も含めた性能の改善が実用化に向けた課題です。

研究が進み、有機薄膜太陽電池の実用化がさらに広がれば、設置の自由度を活かした新たな太陽光発電の活用が期待されます。

監修
アスグリ編集部
アスグリ編集部
株式会社GRITZ
運営元である株式会社GRITZは、野立て太陽光発電所を土地取得-開発-販売まで自社で行っています。自然環境に影響が出ないように、耕作されていない農地(休耕地)に野立て建設しています。自然エネルギーの普及は、脱炭素社会を目指すうえでは欠かせません。当社のビジネスを通じて、カーボンニュートラルな地球に貢献することをミッションとしています。
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