原子力発電のメリット・デメリットをわかりやすく解説 賛成理由や問題の解決策は?
「原子力発電はどうやって電気をつくるの?」
「利用するメリット・デメリットを知りたい!」
「原子力発電のデメリットは?」
日本で用いられている発電方法のひとつ「原子力発電」について、メリット・デメリットが気になっている人もいるはずです。
この記事では、以下についてわかりやすく解説します。
原子力発電の仕組み
原子力発電とは、核分裂の仕組みを利用した発電方法です。基本的には火力発電と同じ仕組みで稼働しており、火の代わりに核分裂の熱を利用して蒸気を起こし、タービンを回すことで電力を生み出します。
核分裂のエネルギー効率は火力発電よりも高いのが特徴です。電気事業連合会の資料によると、同じ電力を生み出す際に用いる燃料を、石油の0.00000014倍まで抑えられます。
2024年1月時点では、日本全国で12基の原子力発電所が稼働しています。まずは、原子力発電の仕組みを理解するために、燃料や原子炉の種類について整理しました。
原子力発電に使う燃料
原子力発電に利用する燃料は、ウランと呼ばれる元素です。
ウランは、宇宙にある星々が寿命で爆発(超新星爆発)した際に生まれる元素であり、爆発した際の宇宙のチリなどが集まって、地球がつくられました。
日本原子力研究開発機構によると、ウランは確認されているだけでも約470万トン近い埋蔵量があり、原子力発電だけで100年程度の電力を維持できると言われています。
原子炉の種類
原子力発電所に設置された原子炉は、すべて同じというわけではなく、それぞれ発電の流れや構造などが違います。
参考として、日本原子力文化財団が紹介している情報をもとに、一般的に用いられている原子炉の種類を以下にまとめました。
原子炉の種類 | 特徴 |
---|---|
沸騰水型原子炉(BWR) | 原子炉のなかの水を沸騰させてタービンを回す |
加圧水型原子炉(RWR) | 原子炉でつくられた高温高圧の水を蒸気発生器に送りタービンを回す |
また海外では、水の代わりに重水を使った「重水炉」、黒鉛を使った「黒鉛炉」など、さまざまな原子炉が利用されています。
原子力発電のメリットをわかりやすく解説
少ない燃料で膨大な電気を生み出せる原子力発電には、環境、発電、コストに関するメリットがあります。
CO2を排出しない
原子力発電は、電力を生み出す際にCO2がほぼ発生しないのがメリットです。
現在の日本は、発電時にCO2を排出する火力発電による発電方法が全体の約7割を占めています。
しかし、発電時に大量のCO2を排出することから、地球温暖化や気象変動といったリスクを増長させてしまうといわれているのが問題です。
2050年目標のカーボンニュートラルにおいてもCO2削減は重要とされています。カーボンニュートラルについて詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
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安定的に発電を続けられる
原子力発電は従来の発電方法と比べて、世界情勢の影響を受けづらく、安定的に発電できるのがメリットです。
日本で用いられている火力発電の場合、石油や石炭、天然ガスといった原料を海外から輸入しなければなりません。しかし、石油といった原料は世界情勢の受けやすく、価格の高騰が起きるなど安定した供給が難しいといわれています。
対して原子力発電に用いられているウランは、世界中で採掘でき、実は日本にも豊富なウランが埋蔵されています。
日本には現在、10,000ショート・トン(約9,100トン)ものウランが埋蔵されていると言われています。
他国と比べて埋蔵量は少ない状況ですが、ウランの高効率なエネルギー生成の効果により、長期的な発電が可能です。
現在はウランの埋蔵量が多いカナダやオーストラリアなどから輸入していますが、価格の高騰が起きても国内で一時的に資源をまかなえます。
発電のコストパフォーマンスに優れる
原子力発電は、少ない燃料で膨大なエネルギーを生成できることから、コストパフォーマンスに優れているといわれています。
資源エネルギー庁が計算した資料によると、原子力発電の発電コストは1kWh当たり10.1円です。対して、日本で多く用いられている火力発電は1kWh当たり12.3~43.4円と高額なコストが発生します。
また太陽光発電といった再生可能エネルギーにかかるコストも1kWh当たり21.6~24.2円程度だと言われているため、発電方法のなかでもコストパフォーマンスの高い発電を実現できるのが原子力発電です。
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原子力発電のデメリットをわかりやすく解説
高効率で電力を生成できる原子力発電ですが、処理の方法や建設といった面でデメリットを抱えています。
トラブル発生時のリスクが大きい
原子力発電では、燃料のウランが放射性物質であることに注意しなければなりません。
放射性物質が周囲に広がると、土壌汚染が深刻化します。加えて、人体に悪影響を及ぼすかもしれません。また放射性物質は水に溶ける性質があることから、放射性物質を含む水を飲んで被害が拡大するといった事故リスクが高まる可能性があります。
2011年3月11日に起きた東日本大震災の影響を受け、福島第一原発が被災しました。
その結果、原子力発電所から大量の放射性物質が大気中に放出され、周辺に住んでいた人たちは人体への影響を避けるために、別の地域へ移り住まなくてはならなくなりました。
使用済み燃料の処理が難しい
原子力発電に利用するウランは放射性物質であることから、環境そして人体に被害が出ないように適切な処理が求められます。しかし、高レベルの放射性廃棄物は数世紀もの間、継続して放射能を出し続けるのが放射性廃棄物の問題です。
現在、地下300mの深さに埋設することで環境や人体に被害が起こらないように処理されていますが、埋設数が増えた場合に処理施設の規模を広げ続けなければならないという課題を抱えています。
発電施設建設に莫大な費用がかかる
原子力発電所の数を増やせば、その分だけ膨大な電力を生み出せるようになりますが、建設費の初期投資が高額になることに気を付けなければなりません。
原子力発電所の建設費は、ほかの発電施設よりも高額になりやすいと言われています。参考として資源エネルギー庁が公開している発電施設ごとの建設費をまとめました。
発電所の種類 | 建設費 | 廃止措置の金額 | 人件費 |
---|---|---|---|
原子力発電所 | 37万円/kW | 716億円 | 20.5億円/年 |
火力発電所 | 12~25万円/kW | 建設費の5% | 1.9~6.0億円/年 |
風力発電所 | 28.4万円/kW | 建設費の5% | 0.6万円/kW/年 |
水力発電所 | 64万円/kW | 建設費の5% | 0.2億円/年 |
もちろん原子力発電所の建設費用よりも高額な発電所も複数あります。しかし原子力発電所は、危険度が高く徹底した管理を求められること、そして人件費といったランニングコストが高額になりやすいことから、建設のハードルの高さが課題です。
原子力発電のデメリットの解決策
原子力発電は、環境や処理に関するデメリットを抱えていますが、近年ではそのデメリットを解決するための取り組みが全国各地でスタートしています。
発電所周辺のインフラ整備
関西電力では、過去の被災状況などを踏まえ、今後発生する大地震に耐えられる施設をつくるために耐震の安全性確認や耐震補強といった対策が実施されています。
たとえば、強い地震を検知すると自動で原子炉の稼働を停止する「保護設備」が地震対策のひとつです。
緊急時を想定した訓練の実施
いつ地震や津波といった緊急事態が起きても素早く対応できるように、過酷な事態を想定した防災訓練の実施に取り組んでいるところもあります。
また内閣府から原子力防災担当者に向けた訓練実務マニュアルが公開されているほか、原子力安全推進協会から原子力防災訓練ガイドラインが公開されるなど、各施設や団体が災害に備えている状況です。
セキュリティ対策の実施
電気事業連合会によると、現在各地域に設置された原子力発電所で、以下のセキュリティ対策が実施されているそうです。
- 電源・冷却設備の強化
- 炉心損傷防止対策
- 放射性物質の拡散抑制
たとえば、災害の影響で送電が止まってしまう状況を避けるために外部電源を新たに設けたり、原子炉が損傷した場合に冷却できるタンクを複数配置したりと、不測の事態にも対応できる準備が進められています。
原子力発電の賛成理由・反対理由
原子力発電は、施設の安全性や東日本大震災の影響から、稼働に関する賛否が寄せられています。参考として、原子力委員会に寄せられている賛成理由・反対理由を整理しました。
原発で働いている人達の生活を原発反対派の人が養えるはずはない。だからこそ、原発の機関を再利用し、原発で働いている人達を救う事も出来、国も安全になり安心して生活出来る国になると思う。
引用:原子力委員会「賛成意見・理由」
原子力を推進することは様々なリスクがあります。設置地域の反対派、賛成派の人々の心の分断、自然破壊、施設へのテロの危険性、人為的であったり自然災害的な事故の危険性、使用済み廃棄物の長(超長)期管理、などにおいてあまりに大きすぎるリスクを国民は背負う必要があるのでしょうか?
引用:原子力委員会「反対意見・理由」
生物多様性が保たれている海を、どうにか供給量が足りている電気を生む為に、完全な安全性など全く保証できない状況にある核燃料を使う発電所を建てるから埋め立ててしまうという行為は、大きく全人類の将来に関わる愚行ではないかと考えています。
引用:原子力委員会「反対意見・理由」
賛成派の意見としては、原子力発電の効率性や人々の暮らしの支えになる面を押されています。対して反対派の意見は緊急事態時のリスクの大きさが挙げられているようです。
メリット・デメリットともに影響力を持つ側面があることから、施設の稼働や停止といった議論が今後も継続すると予想されます。
他発電方法とのメリット・デメリット比較
賛否の意見が寄せられている原子力発電と同じように、ほかの発電方法にも複数のメリット・デメリットがあります。
火力発電
火力発電は石油や石炭、天然ガスを燃焼させることによって蒸気を起こし、タービンを回すことで電力を生み出す発電方法です。
石油や石炭、天然ガスといった燃料は、世界中に潤沢な資源があることから、安定して発電できます。対して、以下のデメリットに気を付けなければなりません。
- CO2排出量が膨大であり地球温暖化を加速しやすい
- 世界情勢の影響を受けて燃料費が高騰しやすい
資源の少ない日本では、火力発電の燃料の大部分を海外から輸入しています。しかし、環境への影響や輸入額が安定しないといった問題を抱えていることに注意が必要です。
水力発電
水力発電は、ダムに溜めた水を放流する際のエネルギーを使ってタービンを回すことで電力を生み出す発電方法です。
水の力を利用するクリーンな発電方法であり、ダムといった貯水施設を活用できます。しかし、ダム建設の費用が膨大になりやすいほか、天候や時期によって発電量が変化しやすいデメリットを抱えているのも事実です。
またダムを建設するため、中山間地で暮らす人々が安全のために別の場所に、移り住まなければならないといったリスクを抱えています。
風力発電
風力発電は、風の力を利用してブレード(羽根)を回すことで電力をつくり出す発電方法です。
風の力だけで発電できることから、メンテナンス費用を除くランニングコストがかかりにくいメリットをもっています。対して、風力発電は常時強い風が吹いている場所にしか設置できません。
また常時強い風が吹く洋上に風力発電を設けるケースも増えてきましたが、陸上に設置するよりも初期コストが高額になりやすいのがデメリットです。
原子力発電のメリット・デメリットについてよくある質問
- 原子力発電でウランを使う理由は何?
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原子力発電でウランを使用するのは、核反応の速度がはやく、少ない量で膨大な電力をまかなえるためです。
またウランという名前がつけば、すべての原子が燃料に使われているわけではありません。
ウランには、核分裂しやすい「ウラン235」、核分裂しにくい「ウラン238」という原子があり、それらを混合させて安全性が確保されたものだけが燃料として使用されてます。
- 原子力発電所の再稼働にはどんなメリットがあるの?
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現在の日本では、東日本大震災を機に、50基近い原子力発電所が停止または廃止されていますが、停止している施設を再稼働することで次のようなメリットがあるといわれています。
- 火力発電に依存しない発電が可能になる
- 小燃料で膨大な電力を生み出せる
- 世界情勢の影響を受けにくい発電が可能になる
- 原子力発電をやめられない理由は何?
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原子力発電をやめられないのは、日本に燃料となる資源が少ないことが関係しています。
たとえば、火力発電などは海外から石油や天然ガスを輸入することによって維持できますが、いつ燃料の供給が止まってしまうかわかりません。
対して原子力発電は国内に燃料が貯蔵されているほか、情勢が安定している先進国にも豊富に貯蔵されています。火力発電よりも燃料を安定供給しやすいことも、日本で稼働をやめにくい理由です。
原子力発電のメリット・デメリットについてまとめ
原子力発電は高効率で電力を生み出せる反面、災害といった緊急事態による事故リスクといったデメリットを抱えています。
日本は東日本大震災の原発事故を教訓とし、国や電力会社などが積極的に災害対策や防災訓練といった緊急時の備えを進めている状況です。以前よりも安全に原子力発電を稼働できるようになっていることから、徐々に停止している発電所の再稼働も始まっています。