エネルギー問題

水力発電のメリットやデメリットの解決策をわかりやすく解説! 発電の仕組みも

水力発電のメリットやデメリット
momohiki011

「水力発電はどんな仕組みで電気をつくるの?」
「発電するメリットは?」
「水力発電が抱えている課題は?」

日本の山間部に設けられている水力発電について、発電の仕組みや運用するメリット・デメリットが気になっている人も多いのではないでしょうか?また、ほかの発電方法との違いについて知りたい人もいるはずです。

この記事では、以下についてわかりやすく解説します。

水力発電の特徴とは?

水力発電とは、水の位置エネルギーを利用して電力を生み出す発電方法です。一般的には、次のような種類のダムや水路など、雨水が集まる土地に水を貯め、まとめて下流側に流す(放流する)ことによって発電機を回し電気をつくります。

  • ダム式
  • 水路式
  • ダム水路式

また水力発電所は、資源エネルギー庁が公開している「日本の水力エネルギー量」の資料によると、全国に1,000箇所以上あると言われており、年間約136万MWhもの電力量を生み出している発電規模です。

1軒当たり年間約4,175kWh(0.004175MWh)を消費すると言われていることから、約3,200万軒近い建物の電力をまかなえます。

なお、2023年時点では日本の発電の約7.5%を占めている状況です。

環境エネルギー政策研究所「国内の2023年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況」
出典:環境エネルギー政策研究所「国内の2023年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況」

2050年目標のカーボンニュートラルの実現にも必要とされる再生可能エネルギーを生み出せる発電方法として世界から注目されています。近年では、小さな河川や用水路などに設置できる小水力発電所などの導入事例も増えており、地域での整備が推進中です。

カーボンニュートラルの取り組みについて詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。

関連記事 カーボンニュートラルとは

水力発電の仕組み

水力発電の仕組み

水力発電は、設置されている形式によって発電の仕組みが異なります。参考として、国内で利用されている水力発電形式の種類ごとの仕組みをまとめました。

貯水池式(一般的なダム、大規模ダム)

黒部ダム
貯水池式の例「黒部ダム」

貯水池式(大規模ダム)は、巨大なコンクリートダムといった構造物を建造し、以下に示す水を1箇所に溜め、放流する際の水の落差を利用してタービンを回す発電方法です。

  • 河川水
  • 雨により山の表面を流れる水
  • 地下水

一度に大量の水を蓄えられることから、発電だけではなく浄水場などが併設されている場合もあります。

山間部の急峻な地形や、大きな川の流域に建設されることが多く、黒部川第四発電所(富山県)・奥只見発電所(新潟県・福島県)が有名です。

調整池式(中規模ダム、小規模ダム)

JR東日本信濃川発電所群の山本調整池ダム(新潟県小千谷市)
調整池式の例「山本調整池ダム」

調整池式は、河川の水量が比較的一定でない場所などに小規模な調整池を設け、貯水した水を放流することで発電する方法です。

前述した貯水池式よりも規模が小さく、天候による影響を受けやすい土地などに建造されます。

日本では、小千谷第二発電所(信濃川発電所)の山本調整池ダム(新潟県)や大鳥発電所の大鳥ダム(福島県)が有名です。

流れ込み式(自流式)

流れ込み式は、前述した貯水池式・調整池式のようにダムを設けず、自然の川の流れを利用して発電する方法です。(水車型の小水力発電・マイクロ水力発電もあり)

主に河川水量が多い場所に設置され、河川水が流れる限り継続して発電できます。ただし渇水期などは発電できないという点がデメリットです。

また日本では、旧北炭滝ノ上水力発電所(北海道)が流れ込み式を採用しています。

揚水式

水力発電 揚水式のイメージ

揚水式は、電力需要が低い時間帯に余剰電力を使って低い位置にある貯水池から高い位置の貯水池へ水をくみ上げ、発電需要の高い時間帯に放流して発電する方法です。

電力供給の調整やピーク時の電力供給として利用されるケースが多く、高低差のある山間部など、上部と下部に貯水池を設置できる場所に建設されています。

日本では、奥吉野発電所(長野県)や俣野川発電所(俣野川ダム)(鳥取県)が代表例です。

水力発電のメリット

日本では、水を利用したクリーンエネルギーを生み出せる水力発電のメリットに注目が集まっています。

CO2を排出しない再生可能エネルギーとして注目されている

水力発電は、CO2(二酸化炭素)の実質的な排出ゼロを目指す「カーボンニュートラル」という取り組みのなかで、CO2をほとんど排出しない発電方法として注目を集めています。

環境省が公開している「2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について」の資料より、発電分野におけるCO2の排出量は現状、発電(エネルギー転換部門)が日本全体の約4割を占めている状況です。

上記のうち、発電の約7割を担っているのが火力発電です。カーボンニュートラルの目標年である2050年に向けて、日本はCO2を排出しにくい発電にシフトチェンジしなければなりません。

水力発電であれば、水という自然エネルギーを使って発電するため、CO2の排出を最小限に抑えられます。

地球温暖化対策に寄与できることはもちろん、長期的に見て持続可能なエネルギーの供給源として評価されている点が水力発電のメリットです。

発電および管理にかかるコストを抑えやすい

水力発電は、一度ダムの建設を終えてしまえば、発電や維持管理(メンテナンス)にお金がかかりにくいのも利点のひとつです。

まず、東京電力が公開している「発電所の維持管理費」の資料より、火力発電所の1基あたりの総合的な維持管理費は年間約350億円だと言われています。

火力発電の維持管理費
出典:東京電力「発電所の維持管理費」(火力発電)

反対に、国土技術政策総合研究所が公開している「ダムの維持管理コスト」に関する調査資料によると、水力発電所の維持管理費が年間3~4億円程度に収まるのが火力発電所との違いです。

水力発電の維持管理費
出典:国土技術政策総合研究所「ダムの維持管理コスト」

火力発電と比べておおよそ1/100程度に抑えられることから、環境のみならずコスト面でも高い可能性があります。

エネルギー変換効率が80%を超える

水力発電の発電効率
出典:関西電力「各種発電方式別にみたエネルギー変換効果」

水力発電は、最大で80%という非常に高いエネルギー変換効果をもっています。

火力発電の1.5~2.5倍、原子力発電の2.5倍、太陽光発電の8.0倍もの差があり、水の位置エネルギーないし落下エネルギーの力を最大限に発揮できるのが水力発電の魅力です。

コストがかからない水を活用している他、燃料を無駄にしない発電が可能であることが水力発電ならではのメリットだと言えます。

電力需要に合わせて蓄電ができる

水力発電は設置する方式によって、電力需要に合わせた発電・供給が可能です。

たとえば、揚水式を採用すれば、電力需要が低い夜間帯に水をくみ上げて、需要が高まる昼間の時間帯に発電できます。

電力系統の安定化やピークシフトに寄与し、地域の降雨特性に合わせて、必要な発電方法を採用しやすいのがメリットです。

水力発電のデメリットと解決策

再生可能エネルギーによる発電方法である水力発電ですが、いくつかデメリットがあることに注意しなければなりません。参考として、デメリットとその解決策を整理しました。

水力発電のデメリット

降雨量によって発電量が変化する

日本の降雨量傾向
出典:気象庁「確率降水量 全国図(アメダス)」

水力発電は、雨水を利用して電気を生み出すため、降雨量によって発電量が左右されるのがデメリットです。

たとえば、雨の少ない地域や季節の影響、さらには干ばつ時には水量が不足し、発電量が減少するリスクがあります。また、近年では異常気象の影響で雨が降りにくい年なども増えており、ダムの水が枯渇したという事例も少なくありません。

上記のような状況下で、うまく水力発電を活用するためには、地域の特性に合わせた発電形式を採用することが重要です。実際にダム設計などでは過去数十年にも及ぶ降雨量などをリサーチしたうえで、最適な土地を選定します。

ダム建設に膨大な土地と費用がかかる

維持管理費用がかかりにくい水力発電ですが、ダム建設をする際に膨大な面積の土地と費用が必要になります。

まず土地が必要な場合には、山岳地帯を切り崩してダムにするといった工事が必要です。もし選定された土地に集落などがある際には、買収して取り壊さなければなりません。(工事効率化のためにそのまま水没させるケースもあり)

過去に起きたダムのトラブル

岐阜県揖斐郡揖斐川町に建設された「徳山ダム」は、ひとつの村を買収してダム建設を実施する工事が実施されました。ただし、工事のなかでは反発する地域住民なども多く、自治体と大きな衝突が起きたニュースなども話題となりました。

参考:NHK「【ニュースアップ】ダムに沈んだ旧徳山村 最後の交流イベント」

またダムの初期導入コストは、ダムの規模にもよりますが、1回の工事で100~200億円程度の高額な費用がかかると言われています。

ダム建設は国民の税金などから予算が組まれるため、投資回収などを考慮したうえで建設地を適切に選定することが欠かせません。また環境アセスメントを徹底し、必要最小限の規模で建設を進める他、小規模水力発電のようにダムを必要としない方式の採用も必要です。

ダム下流側の環境に影響を出しやすい

水力発電は下流側に大量の水を放流し、落下する力を活用することによって電力を生み出しますが、下流側の環境に次のような悪影響を与える恐れがあります。

  • 生態系の破壊
  • 地形の変形
  • 漁業や農業への影響

ダム建設・放流によって水の流れが変化し、下流側に住む魚類などの生態系が崩れる他、水質が変化して漁業や農業に影響を与えるかもしれません。

あらかじめどの範囲まで影響が及ぶのか検証を実施し、環境保護に取り組まなければ、大規模な被害を与える恐れがあると言われています。

他発電方法がもつメリット・デメリット

日本では、水力発電の他にも多種多様な発電方法が運用されています。なかでも利用する割合の大きな発電方式について、それぞれメリット・デメリットを整理しました。

水力発電以外のメリット・デメリット

火力発電のメリット・デメリット

火力発電 イメージ

火力発電は、石炭や天然ガス、石油といった燃料を用いて電力をつくる発電方法です。日本の発電量の約7割を占めており、次のようなメリット・デメリットがあります。

メリットデメリット
・燃料を安定的に供給できる
・発電出力の調整が容易である
・需要に応じた柔軟な運用が可能である
・広く普及しているため設備を設置しやすい
・温室効果ガス排出量が多く地球温暖化に影響を及ぼしやすい
・海外からの輸入に依存しているため発電コストが変動しやすい
・化石燃料の枯渇リスクがある

より詳しく火力発電の概要を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。

関連記事 火力発電のメリット・デメリット

風力発電のメリット・デメリット

風力発電 イメージ

風力発電は、風の力を利用してタービンを回し、電力を生み出す発電方法です。水力発電と同様に、風という自然の力を利用して電力をつくるクリーンな発電方法だと言われています。

メリットデメリット
・燃料不要でCO2を排出しない
・燃料費がかからない
・建設後の環境負荷がかかりにくい
・風の強さに発電量が依存する
・風のある土地など設置場所が制限されやすい
・騒音問題や景観問題に発展しやすい

なお近年は、風の強い海上に設置する「洋上風力発電」など、新たな風力発電が開発され、実際に国内でも洋上風力発電が運用されている状況です。

太陽光発電のメリット・デメリット

太陽光発電

太陽光発電は、太陽光の光エネルギーを使って電力をつくり出す発電方法です。再生可能エネルギーとしても有名であり、次のようなメリット・デメリットがあります。

メリットデメリット
・燃料不要でCO2を排出しない
・設置規模を自由に調整できる
・保守運用コストを抑えやすい
・天候や時間帯に発電量が左右される
・環境破壊や生態系への影響がある
太陽光パネルの廃棄方法が確定していない

また、小型の家庭用パネルや大規模な事業用パネルなど、ソーラーパネルの出力やサイズを自由に調整できるのが太陽光発電の魅力です。より詳しく太陽光発電について知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。

関連記事 太陽光発電のメリット・デメリット

関連記事 太陽光発電とSDGsの関係

原子力発電のメリット・デメリット

原子力発電所

原子力発電は、ウランといった燃料を利用し、核分裂反応をするときに発生する熱エネルギーを利用して電気をつくり出す発電方法です。次のようなメリット・デメリットがあります。

メリットデメリット
・燃料不要でCO2をほとんど排出しない
・大量の電力を安定的に供給できる
・燃料が少量で済み輸送・保管効率が良い
・重大事故が発生すると甚大な被害をもたらす
・使用済み核燃料の処理や保管に課題がある
・建設コストが高い

デメリットのなかでも有名なのが、2011年3月11日に発生した福島第一原発の事故です。非常に高い発電量がある一方で、事故が起きた場合には、周辺環境を大きく変えるトラブルに発展します。

より詳しく原子力発電について知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。

関連記事 原子力発電のメリット・デメリット

水力発電が抱えている課題

環境に優しく維持管理費用を抑えられる水力発電ですが、水を使う発電であるがゆえに、抱えている課題があります。

再生可能エネルギーとしての安定性が乏しい

再生可能エネルギーとして必要視されている水力発電ですが、降雨量に依存する仕組みに「発電の安定性の低さ」という課題があります。

CO2排出量の実質ゼロを目指すカーボンニュートラルを実現するためには、CO2排出量を減らしつつ安定した電力を生み出さなければなりません。対して、降雨量が減って発電ができなければ、CO2排出量の多い火力発電などに頼る必要が出てきます。

近年では、過年度と比べて天候が変化している気候変動といった問題も起きていることから、水力発電をメインの発電としては利用しにくいのが課題です。

ダム建設・放流が環境破壊につながると懸念されている

水力発電は自然の力を活用したクリーンな発電方法である一方、ダム建設や放流が環境破壊につながるという矛盾を抱えています。

たとえば、ダム建設時には山間部の樹木を切り倒さなければならない他、完成して放流する際には、大量の水が下流側に住む生物の生態系を破壊するかもしれません。また場合によっては上流側の生態系も変化させると言われています。

環境に良いクリーンエネルギー・自然環境に悪い建設・放流という2つの顔をもつことも、カーボンニュートラルを実現しにくい点です。

水力発電のメリット・デメリットについてよくある質問

Q
水力発電に弱点はある?

以下に水力発電の弱点をまとめました。

  • ダムを建設できる場所が限られている
  • ダムや水路建設の費用負担が大きい
  • 一定の発電量を保ちにくい
  • ダム建設によって生態系に影響を及ぼすかもしれない

環境への影響が少ないという反面、運用方法を決める際には、上記の弱点に注意しなければなりません。

Q
水力発電が日本に向いている理由とは?

日本は山が多く、水資源も豊富な土地柄であることから、他国と比べて安定的な降雨量を期待できるのが水力発電に向いているポイントです。

ただし、近年では水不足に悩む土地などが出てくるなど、日本の気候が変化しつつあります。現在は日本に向いている発電方法ですが、今後、水力発電施設は気候変動によって利用価値を失う恐れがあることに注意しなければなりません。

水力発電のメリット・デメリットについてまとめ

水を利用して電力をつくる水力発電は、CO2をほとんど排出しないクリーンエネルギーとして注目されています。

ただし、メリットだけではなく安定性のなさや建設・放流時における環境への影響などに注意が必要です。発電方式について興味がある方は、この機会に水力発電を含め、複数の発電方式をチェックしてみてください。

監修
アスグリ編集部
アスグリ編集部
株式会社GRITZ
運営元である株式会社GRITZは、野立て太陽光発電所を土地取得-開発-販売まで自社で行っています。自然環境に影響が出ないように、耕作されていない農地(休耕地)に野立て建設しています。自然エネルギーの普及は、脱炭素社会を目指すうえでは欠かせません。当社のビジネスを通じて、カーボンニュートラルな地球に貢献することをミッションとしています。
記事URLをコピーしました